鯨と羊の夢
灰を喰らいつづける油虫とともに
わたしは深夜の莨を吸い
ひたすら過古にふりまわされる
かつてかわいらしかった少女たちはどんな男とどんなところでどんな所帯
をもってるだろうかって
わたしは喪い過ぎた
酒精が衰え
形式が立ち現れる
もうよしてくれよ
わたしをひっぱりまわすのは
猛スピードでかの女たちが幻想のうちに去っていく
ああ、これでいいのさ
鯨と羊の夢をもとめてやがて雨季は終わる
有情群類
目的も地理も見喪って
枯れた花が憐れみ
澱んだ水が泣き
冷蔵倉庫の夜勤どもが時計に締めあげられてるあいだ
ぼくはできるかぎり粗野なふるまいをし、
ひとり芝居に酔ってる
こいつは病気にちがいない
タイプミスに苛立ってあらんかぎりの声々をタイプする
ぼくは新しい国をめざす一匹の老いた青年だ
アーチ状の詩形が夜の窓にかかって
注意ぶかくぼくはその手を伸ばす
有情群類よ、
かつてあんなにもきらってたおまえを
いまになって好こうとしてることをどうか赦して欲しい
方角は色彩の一種だ
もうじきそれはぼくの顔を照らすだろう
休息
夜の果てを待って休息にでかけよう
頬を打つ葉の、
葉脈をポケットに集めよう
けれども陽光をおれは決して諒解しないだろう
消してしまいたくなっちまう
ひとりぼっちの窓にそれはあまりにむごたらしいからだ
更正センターの黒い陰
"nada" のひびきがどこまでも路を匍い、
おもわずおれは眼をそらしてしまってた
ああ、そうともほんとうは怖いんだ
夜のあいまも午のあいまもおんなじくらいに
そのとき老人みたいなものがおれとかさなった
そいつの声がこういうんだ、
おまえは愛を知らないって
人生を知らないってな
夜の果てを待って休息にでかけよう
おれは愛を知らなくちゃいけない
おれは人生を知らなくちゃいけない
たとえそれがみすぼらしく、ちっぽけなものであろうとも
苦しさの押し売りにさよならを告げて
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選出作品
作品 - 20140624_462_7503p
- [佳] 三階の窓からの紙片 - 中田満帆 (2014-06)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
三階の窓からの紙片
中田満帆