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作品 - 20140614_293_7485p

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フローラ

  はかいし

今Hector ZazouのButterfly Plaintifを聴いている。気分がいい。小説の一本でも書けそうな勢いだ。試しに何か書いてみている。悲鳴に近い叫びが音楽の中に挟まれている。それがいい。歌詞の意味はわからないが、その辺はどうでもいい。とにかく何かが書けそうなんだ。それがいい。音楽が次の曲に移る。Vespers of Saint Katrina。蛇が這うような音。電子音だろう。それがなんともいい。「泡沫の海は」という詩句を思いつく。それをどう使ったらいいか考えている。結局採用せず、捨てることにする。Loveless Skyに移る。「雨の海は」という詩句を思いつく。これも使い道がなさそうだ。二つつなげてみる。

泡沫の海は雨の海は

「愛のない空」だろうか。Loveless Skyの訳は。泡沫の海は雨の海は愛のない空に吸い込まれていく。なんとも心地がいい。これを書いている今、うん、いい感じだ。Agony of the Roseに移る。トランペットの音がよい。いやひょっとするとブリューゲルホルンかもしれない。「海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は」を思いつく。

泡沫の海は雨の海は
海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は

ひょっとするとブリューゲルホルンなどという楽器は存在しなかったかもしれない。それは僕がまだ若かった頃に好きだった発音を組み合わせただけの産物だったのかもしれない。そう思うとブリューゲルホルンという詩句は使えない。海の底に横たわる……何にしよう。今「…」を入力しようとして、「・フローラ」という言葉が出てきた。フローラ。フローラとは誰だろう。いったいいつそんな言葉を使ったろう。この詩のタイトルは決まりだ。フローラにしよう。Ice Flowerに移る。トランペットがまた良い。最初に流れていたApostropheにしてもそうだが、このアルバムはトランペットがとても良い音を出している。こういうとき、「とてもいい仕事をしている」と言いたくなる。

泡沫の海は雨の海は
海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は
とてもいい仕事をしている

氷の花。Ice Flowerの訳。それにしても、いかにもIce Flowerらしい曲だ。いい詩が書けそうな感じ。ここで僕はトイレに立つ。戻ってくると、アルバムの最後の曲「Symphony of Ghosts」がかかっている。海はいつだって同じ色をしていない。それは音楽と同じように姿形を変え、自在にうごめく。今「うごめく」と打とうとしたとき、一瞬ためらった。何か他にいい言葉がないか探してしまった。ねこぢるの作者が、遺書に葬式中の音楽を依頼していたといい、それが確かエイフィックス・ツィンだった。というわけでエイフィックス・ツィンをかけてみる。

文学極道

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