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作品 - 20140430_676_7421p

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お化けになりたい女の子のはなし

  熊谷


 お化けになりたい女の子は、いつかお化けになれることを信じている。そのうち消えると思っている右足と左足を切なく見つめて、君たちのことは忘れないからね、などと言ったりする。その割に、オリンピックよりパラリンピックに興味があって、車いすバスケットボールの試合を見ては、感動して泣いたりしている。僕がいじわるで、君の右足と左足をあげたらいいんじゃないかな、などと言うと、50m走なんか10秒もかかってしまうから、人にあげるシロモノではないし、むしろ世界中から見放された足なのよ、と言う。そうしてまた、それぞれの両足を切なく見つめて、ため息をつくのだった。そのため息がいつか雲になって、しっかりとした形になって人が乗れるくらいの大きさになったら、いつか君を見放したはずの世界中を、今度は君がその雲に乗って旅行するんだろう。君が望んでいるのは、お化けになることじゃなくて、きっとそういうことなんだろう?



 お化けになりたい女の子は、早く大人になりたいと思っている。金曜日の夕方ドラえもんを見ながら、若い子なんて未来に置いてきて自分だけ勝手に年をとりたい、他の人より速いスピードで年をとる道具を出してくれないのかなあ、などとワガママを言ったりする。そのくせ僕が録りためていた映画を早送りで見ていたりすると、その時間の使い方は何もかも損している、と怒ったりする。燃えている家の前で金髪の女優の笑う演技が、この映画の中で一番の見どころなのよと言って、そのシーンまで巻き戻しをしたりする。不吉なその表情の何が良いのかが分からなかったが、それを見てる君の横顔はお化けというよりも、ふつうの女の子にしか見えなかった。君は不幸とか不吉とか、そういうものをいちいち確認する癖がある。つまりそれって、何よりも幸せな女の子を意味するということを、君は一体いつ気がつくのだろう。



 お化けになりたいということと、死にたいということはイコールじゃないって君は言う。僕はそれがどっちかなんて、はっきり言ってどうでもいいと思っている。例えば、夜に君が目を閉じて開けるまでの間に、世の中で何が起きていたのかなんて知らなくていいし、脱法ハーブはどんな味がするとか、溺死した死体がどんな状態になってしまうとか、アルツハイマー型認知症になった母親がどこをどう徘徊するとか、浮気相手の性器に父親がどんな顔で自分のそれを出し入れしているかとか、君はいちいち真面目だからそういうことをちゃんと知ろうとするだろう。それを知らないでいるという選択肢があるということ、そして知らなくていい権利があるといことを、ちゃんとわかっていてほしいんだ。だって君は死にたいんじゃなくて、ただ単にお化けになりたいんだろう?そうしたらもう考えるのをやめて、早くお風呂に入って眠るといい。そうしたら、君は夢の中でお化けになれるかもしれない。



 お化けになりたい女の子は、本当はお化けになんかなれないことを知っている。騙し騙しやって積み上げてきた自分というものに、お化けになれない女の子がふとした瞬間とり憑いて、君は不安でいっぱいの表情になる。そうして、いろいろなことを少しずつやめていっていいかなあと言って、君は泣き出す。きのう見た映画の女優ばりの演技だったけれど、君は君が望んでる早送りも巻き戻しもできない場所で生活をしているんだよ。いくら君が真面目な生活に疲れ果てて、仕事をずる休みして昼夜逆転の毎日を送ったとしても、世界は君が死ぬまで絶対に見放さないし、しっかりとした形の雲は君を乗せることなく土砂降りの雨を降らせるだろう。そんなときは、雨が上がったころに夜空を見つめて、自分の星座がその空のどこらへんに輝いているのか確かめればいい。そうしているうちにだんだん眠くなってきて、結局君は自分の星座を見つけられずに、夢も見ないで眠ってしまうんだろう。それはそれでいいと思う。そうして目が覚める頃にはまた、お化けになりたい女の子にきっと戻っているのだから。

文学極道

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