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作品 - 20140421_550_7407p

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あなたの春の一日

  鈴屋




ベッドを降りて すぐ窓辺に向かうのは ごく自然なあなたの
習わし 目覚めるまぎわの 夢の中で負った新鮮な傷口が春を
染めあげ 「生まれたばかりの幼い蜥蜴に会いたく」は 行く
春の謂われとしては 姑息なもの言い 庭に一輪 咲き初めた
白薔薇に 「おまえを切る」と鋏を入れ グラスに挿したテー
ブルに頬杖ついて見つめていても しょせんは成就しない美と
いうもの 紅茶は冷えていたずらに紅い



河口と雲だけが輝き 突堤の先端では 日傘を傾けるあなたも
あなたが連れたトイプードルも 記憶のように瞬きながら翳る
毛細管が急速に繁茂していく青空 やがて暗黒へとゆらいでい
く青空 水平線が飛沫をあげて垂直に立ち上がり 目盛られる
来し方100年 さらに100年 「戦争は宴だった?」 初夏を思わ
す太陽の下で あなたは質素だった食卓のことばかり思い出す
そこに居たはずの わずかな係累のことも  



あなたにとって星は 呼びかけうる最も近しい隣人 窓が閉じ
られカーテンがひかれ そそくさと踵を返すキッチンでは 一
枚の肉が夕焼けのように焼けていく 皿を並べたテーブルの上
では 白薔薇の首が刻々死へと落ちていく 肉の油で汚れた唇
をぬぐい 膝に前肢を掛ける三毛をたしなめ なにより無事を
尊ぶあなたの生活 きょう一日のことを 「あれ?」と こと
もなげに忘れてしまえば 忘れたことはあしたまで見る夢の糧

 

文学極道

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