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作品 - 20140327_293_7372p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ジニア

  山人

初夏のような空気が立ちのぼる街並みを歩いていた
振り返ると古い大きな病院がある
病院の入り口付近には大きな桜並木があり
自転車置き場には夥しい花弁が散りばめられていた
小枝の先からはなれていった いくつかの一片
桜は 木であることも知らず立っている


医師の話を他人事のように聞いていた
治療するのだという
「治療」という言葉がずっと頭にこびりつき
廊下はひかり
ベンチシートの老人達は喫茶店の客のように寛いでいた

初夏ような風は心地よかった
風が顔にあたり 額に髪をなびかせる
真っ直ぐに遠くを見つめながら髪を耳にそっとかける
ふと足をとめ ジニアの種を買う
ダリアのような鮮烈な色合いが
戸惑う血液を溶かし 未来をひらかせる気がした
ジニアの花が見たい そう思った

小さな花壇にしゃがみこむ
しっとりとした土のにおいが なにかを育もうとする力を感じる
きっときっと 花を咲かせてみせる
あの鮮烈なジニアの花を見たいから
土のにおいを嗅ぎながら額の汗をぬぐった

文学極道

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