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作品 - 20140318_179_7356p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


再誕した、春は遠野に

  はかいし

行き先も告げずに走り、ぼうっと霞んでいく街を見送ったときの、あなたが忘れられないのはどんなときですか、という一言が忘れられなくて、思い返してはサイコロのように転がしてみるけれども、いつまで経ってもゼロの目が出ないように、あなたはいつしか忘れ去られて、風とともに消えゆくのですか、と問い尋ねる私はどこにもなく、無と化している。

昨日あなたは野里を離れ、遠くの方へ行きました。そしてそこから帰ってきませんでした。これはまれに見る盗作劇です。ねえ、皆さん、私は盗作をしているんですよ、虫かごの中に埋めていた光るたんぽぽの花花が散りゆく景色の中を、盗作者の手つきでもって歩いているんです、手だけでタップダンスを踊るようにして、ね。

「私だって、波動の一部ぐらいは使えるんだ」
「お前のせいでアド損しまくっているんだけど何かいい手札ないの?」
「ないね」
「馬のことをちゃんと考えてあげなきゃダメでしょ」
「ばんえい馬部の裏方で働きたい」
「やっぱりヨーロッパとかあっちの方の感受性っていうものにすごい魅力を感じるんですよ」
「ヒスチジンのイオン化の問題」
「波動を使えるなら、使ってしまえばいいんだ」
「私は波動を感じる、それもとてつもない生の波動を。パジャマ姿のままで」
「昨日ジャック・デリダの『ヴェール』を読んだんだ。小説みたいな書き出しで驚いていたら、それは他の人との共著だったんだ」
「何が書いてあったの?」
「もう覚えていない。出だしだけでひどく遠ざけられたような気がしたよ」

遠ざかっていくものたち、それらに向けて差し出した挨拶は、途方に暮れてしまうほど長いので、忘れないように、紙にしっかりと書き写して、声に出して読み上げてみるけど、その声は遠ざかってしまったものたちには決して届かず、滞留を起こしている、そんな気がしている。

文学極道

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