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作品 - 20140301_883_7334p

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置いてき堀

  はかいし

山道を父とともに走りながら、目に写るものを少しずつ言葉にしていく。葉の落ちた落葉樹の群れの中で、静かな光を放つ常緑樹。走る私の喘ぎ。このままくずおれてしまいそうだ。ならばいっそ自分から、くずおれてしまえ。前を走っている父が言う。大丈夫だ。あともう少しで家に着く。父よ、言っておくが私はもう無理だ。限界だ。走り切れない。走りにキレがない。父よ、だが大丈夫だ。私はダメかもしれないが、お前は大丈夫だ。お前なら私をおぶっていける。ダメだ、それでは共倒れになる、と父。ならばいっそのこと共倒れてしまえ。走り去る父。私は置いてきぼりを食らう。むしゃむしゃ。なかなか味がある。こいつはいけるぞ。なんて名前の料亭だろうか。置いてき堀? いい店を見つけた。少なくとも、休むにはいい。紹介してやろうか。結構だって? まあそう言わずに。注文は? オムライスにしよう。なんかいつも俺って小村いすおとか言いたくなるんだよな、と父が言う。それって食べれるの、と突っ込む。グレイトだからな、何でもありだ、と父。グレイトも父の口癖だ。グレイト・ギャツビーはさぞかしグレイトだったんだろうな。あんなののどこがグレイトなんだ、と私。皮肉なんだよ、あれは。まあ、なんでもグレイトだよ、と父。さてこっからどうやって進めようか。オムライスがやってきて、店を後にする父と私。最後に見たものを言葉にしよう。山道を抜けたところにある、老人会のチラシが貼られた掲示板。この辺も老人だらけになってきたなあ、と父。お父さんはまだだよ、と私。

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