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作品 - 20140301_863_7330p

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カラチョキチョキ。

  田中宏輔



ディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』を読んでたら
アリストンという名前の哲学者が、ハゲ頭を太陽に焼かれて死んだって書かれていた。
べつに、ハゲでなくっても、日射病ぐらいにはかかると思うんだけど。
まあ、ハゲには、直射日光も、かくべつキツイってことなのかな。
カラチョキチョキ。
いつも、ぼくの髪を切ってくれる美容師の男の子が、前にこんなことを言ってた。
ハゲってさあ、すぐに散髪が終わっちゃうの、嫌がるんだよねえ。
だから、その人には見えないように、頭の後ろで、ハサミを動かしてあげるの。
髪の毛を切らないで、チョキチョキ、チョキチョキって、音をさせてあげるの。
ただ、ハサミの音を聞かせてあげるだけだけどね。
それで、満足みたいよ。
それ、あたしたちのあいだでは、カラチョキチョキって呼んでるんだけど。
そういえば、古代ギリシアの悲劇詩人である、あのアイスキュロスも
頭がハゲてたせいで死んだって話を読んだことがある。
ヒゲワシという種類の鷲に、頭に亀をぶつけられて殺されたらしい。
その鷲は亀の肉が好物で、生きている亀を岩の上に落として甲羅を割ってバラバラにして食べるという。
詩人のハゲ頭を、岩と間違えたってことなんだろうけど、悲惨な話だ。
これって、ハゲの人のほうが、ハゲじゃない人より災難に遭う確率が高いってことかな。
カラチョキチョキ。
だからこそ、ひといち倍、ハゲには思いやりが必要なのだ。
ん?

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