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作品 - 20140222_753_7323p

  • [佳]  相談 - むじな  (2014-02)

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相談

  むじな

父親の定年退職を期に
そろそろこの家も建てなおそか、て主人が言うて
わが家に重機が入った日、
の翌日
解体の業者さんから電話が掛かってきて
ちょっと変なもんあるんで見てもらえませんかって
なんですかって訊いても要領得ないんで
じゃあ今から行きますわって行ってみたら
これなんですよ
この柱なんですけどね
見たことありますかって、
それが真っ黒でゴツゴツしててヒビ割れてて
おまけに古いシメ縄が巻いてあって
なんか触るとぺっとり濡れてる
いや、見たことありませんね……て言うたら
そこにあの、なんか五寸釘ていうのか
長くてデカい釘が何本も刺さってて
それがまたむっちゃ怖い
こんなもんがなんでウチに?
いやあ、それが訊きたくて来てもらったんですよーって
業者はヘラヘラしてるけど
お前それ笑うとこか?
あ、いや、そうですね、すんません……
そんでこれ、この柱なんですけどね
あの、見てもうたら早い思うんですけど
家の柱とか梁とかそういうのんとね、これ、どことも繋がっとらんのですわ
あそこの大黒柱の裏っかわのね、あそこの、見えますか? あの、
そう、あの押入れの奥んところのね、ほんまに僅かなデッドスペース
言うたらあれですね、プチ開かずの間?
そこにね、一階二階ぶちぬきで立っとったんです
これちょっと変でしょ?
だからわざわざ来てもろたいうわけなんですわ
それで、もしあれがその、なんていうかあの、おたくの家にとって、なんか大事なあれで、
あの、もしなんか我々が下手にあれしたらあかんやつやったら、ほら、色々とあれやないですか……
そう言って業者が指さした先には
ピラピラした半紙みたいなのを人の形に切ったのがあって
頭の真ん中に釘が立っている
そして胴体には誰かの名前、感じ的にはたぶん女やけど、
それと住所、京都市北区……の先はプライバシーの侵害になるのでここには書かないが
とにかくえらい達筆で
しかもこれたぶん墨やのうて血で書かれてて
おまえどんだけ怨んどんねんと
でもこれほんまにどうしたらええんやろ?
という話をきのう姉から突然されたのでとりあえずグーグルマップで場所を調べてみたら区画整理か地番変更でもあったのかして残念ながら該当なし、感じ的にはたぶん平野神社と北野天満宮の間くらいやけどうーんちょっとこれ以上は分からんねって言ってでもとりあえずそのへん行ってみようかいう話になって北野白梅町のへんまでは行ったんやけど実際行ってみたら完全に普通の住宅地やしなんかごめんもうええわって姉も突然急にアホらしなったんかして気い済んだっぽいし私もついつい調子乗ってそやそやこの平成の世に呪いやの祟りやのってそんなもんあるかい!柱みたいもん潰せ潰せって笑ったその翌々日、姉夫婦一家の仮住まいしてた近所の木造アパートが全焼してその焼け跡から一家五人の遺体が見つかり警察は身元の確認を急いでいますってニュースでやってたまさにその瞬間、私の携帯に母が掛けてきて一言お姉ちゃんやった……て呟いて切れたのですが、これマジでどうしたらいいんでしょうか?

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