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作品 - 20140213_573_7311p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「・」

  お化け

生き物たちの欲望の箇条書きがあるとして、その「・」は、星の数ほどある。だとしても、あなただけには特別に、数え切れない星の先にある「・」が用意されている。いま何処かであなたの星が生まれて光る「・」が299792458m/sの速さで地球へ向かっている。だとしても「私のことをもっと考えて」と昨日言われた。ごめんね足りなければ、光を放たない惑星の数も含めたっていい。だとしても、見えない惑星の端っこで、綺麗な星と星の間で、色んな人のことを思いやりたい人たちもいるんだ。きっと思いやりが足りない分だけ惑星の数がある。とてもたくさんだ。金星人がいるかもしれないから、生き物たちの欲望の「・」の数は、それよりもっとたくさんかもしれない。あらゆるワガママも含めれば、見えないすべての「・」も含めていい。すべては星の数を超えている闇なのだと思う。あなたはいま何を考えているのか。前にはちゃんとわかっていたことが、わからなくなってしまったよ。仕事が終わった帰り道、単純なことをしよう。小ちゃな虫を見るみたいに空を見上げよう。僕は彼女とあまり話さなくなった。満月の夜がきて、見えるのは雲ひとつない星空、「何か話して」って彼女に言われた。「ウサギの影に隠れているのは運命さん」「で? だからどうしたの?」険悪な雰囲気だった。

男女の後ろで運命がこっそり「・」の実情を調べている。偶然選ばれた「彼」と偶然選ばれた「彼女」のすべての欲望を数えあげるている。運命が男女の欲望の数を知って空を見上げれば、「彼」の星は全部、彼の色に光った。「彼女」の星も全部、彼女の色に光った。点火した星と星の間に線が結ばれる。彼の色をした星は彼の色の線で、彼女の色をした星は彼女の色の線で、「・」と「・」が全て結ばれた。彼の色をした図形と彼女の色を図形が星空に浮かんでいる。彼の人格と彼女の人格が浮かんでいる。人格の俯瞰図、個性の形。一つの人格には様々な図形の角があった。彼女は彼の角を責めた。彼も彼女の角を責めた。欲望の図形には運動もある。彼の角から線が伸びる。何処かの星で線が止まる。その先端から、一斉に、放射的に、彼の全ての欲望の「・」へと線が伸びる。人格が新たな欲望で変化していくときの花火。新しい欲望が生まれた。彼女の人格が欲望を失うこともある。星は、彼女の色を失って、結ばれていた彼女色の線が一斉に消える。これもまた夜空で散る、儚い、何か。彼女が何かを言い終わった後なのかもしれない。イルミネーションが消えた。

(光が生まれて、消えて、生まれて、最後は、日が昇って夜が消えるときみたいに、全部消える、運命だ。運命はウサギさんに言う。「個性の形が散りながら動くのが美しいだけ。美しい人格はどこにも無い」「ねぇ、よくわからないんだけどね、どうにかしてよ」ウサギは運命に話しかけた。星空に浮かぶ彼女の図形と彼の図形の一部が交わった。男女が、同じところ同じ時間に隣り合わせで空を見上げて、いま星空を見ていた。彼女の図形の角から線が伸びる。彼の図形の角からも線が伸びる。その線は、同じ一つの星まで伸びて交わって、二人の色をした新しい図形の角が誕生した。恋人たちの後ろでそっと運命が見上げている。振り返ると何かの気のせいみたいにふっと気配だけ残して、夜の影の中に消えた)

文学極道

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