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作品 - 20140201_233_7273p

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私は見た。光を

  はかいし

 ねえ、聞こえる? 聞いてるよ。何だい? なんでもない。ただなんとなく、気になってさ。何が? 聞いてるのかってこと。聞いてなかったらどうするの? 死ぬの? 死にやしないさ。でも気になるんだ。気にしてくれるのはうれしい。でもね、ただなんとなく死んでいくのかって思うとつらくってさ。つらいって、何が? ただなんとなく、死んでいくのが。同じことを何度も言わせるなよ。誰もがただなんとなく死んでいくだろう? この世界じゃあそういうことは日常茶飯事だ。嘘つけ。そんなはずはない。それはお前の思い込みにすぎない。誰もが必ず何かしらに生きがいを見出だしてそれに打ち込む。そうだろう? ねえ、聞こえる? 聞いてるのか? 聞くとはどういうことか? 教えてやろう。耳の穴の中に、言葉たちを引き連れて入っていけばいいのさ。何を? 言葉たち。ねえ、それだからもう一度言うよ、どうして聞こえるんだい? 君が聞いているのは何だい? 音楽かい? 声かい? ねえ、聞いてるの?

 明日も冷めやらぬうちに
 帰りなさいとあなたは言った
 言ったところが傷になって
 残った。残った、はっけよい

 いいか? 耳の穴の中は、とても複雑な構造をしている。そこに波だけ連れていってもいけない。音を連れていくんでもいけない。言葉だ。言葉を連れていかなければならない。おっと、もう帰りの時間だ。明日の朝から夕にかけての日の光のことを君は忘れてはいけない。そうしなければ、ただ……なんとなく死んでいってしまうだろう。君を忘れない。最後まで。最期のときに君は何と言ったろう?

 昨日のことが忘れられない
 明日になってしまったら
 ぼくはますます死にたくなるよ
 傷だらけのポエマーになって

 君は見たんだ、その姿を。傷だらけのポエマーの姿を。でもそのことを告げてはならない。ただこう言いなさい。私は見た。光を。こう言いなさい。それですべて終わる。終らせなければならぬ。ただなんとなく死んでいったものたちのために語り終えねばならぬ。そうだろう? なあ、そうだろう?
 こうして言葉だけが残った。はっけよい

文学極道

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