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作品 - 20140129_154_7262p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


no title

  紅月

●ring

青い花が好きだった赤い少女が白い文法の群生する野原を駆けていく夢を見たんだ、と、洩らした傍らの友人は墨のように真っ黒でなぜか直視できない、明け方の浜辺、打ちあげられた魚たちが至るところで力なく跳ねている、その上空を猛禽たちが鋭い目つきで旋回している、その光景を黒い影たちがゆらゆらと円状に取り囲んで眺めている、(そして、遠くからそのさまを観察する何組もの私と友人、)なぜ死は静寂として齎されないのだろう、と、友人は言う、波が嘲るように声をあげる、いきものはひたむきに躰をくねらせるのにどこまでも静寂だ、静寂に色彩を宛がうように、ぐるぐると幾重に俯瞰の渦を巻き、浜辺に打ち上げられた青い少女が昨夜食べた赤い花は文法の白い野原に群生しているんだよ、と、影たちは口々に言う、彼らもまた文法なのか、




●kasou

日記を書く、私が大切に育ててきた庭のくちなしに火を放つという架空の内容の今日、(炎に浮かぶオオスカシバの幼虫は痙攣しながら溶けていきましたまるで焼け焦げて歪む写真の像のように、)やがて炎は私の家をも呑みこみ爆ぜるのだろう、ばちばちと音を立てて炎上する私の家で生活していた私も炎上する、なんの比喩もそこに介在できない、かつてここに私の家があったころたしかに私はここで生活していました、していたことがあります、と、語るための、熱、(黒い父や黒い母が炎の中に揺らめいているのが見えました、知らない人たちでした、)インクで汚れていく日記帳、文字が咲き乱れている、ね、(ふいに羽音が聴こえて顔を上げると煙る空にたくさんのオオスカシバが舞っていました、)火の粉、空から降り注ぐひかりの鱗粉、透明の翅、色褪せる水の深淵から数えきれないほどの羽音が溢れ、色濃い静寂が炎の喧騒する輪郭を舐める、白昼のさなか、




●eyes

外人の青い瞳の中に指を入れてかき混ぜるとします、赤い語彙が溢れますか、そしてそれをあなたは読解できますか、と、教授は私に問う、外人のことなんてなにもわかりませんなぜなら私が殺した人々はもはや外人ではないから、私の黒い瞳のしじまの中に指を入れる私たち、かき混ぜる、あるいは混ぜられる、赤く染まる視界、射精、吐き出された私の血溜まりにはたくさんの外人の瞳が転がっているから、青や、赤、色彩の花畑、文法を摘んでいく少女は傍らで干からびている私の死体には目もくれない、あなたが外人だから、と、教授は言う、私は答えない、答えられない、(外人だから、)

氷晶、幾数の四角形、あざやかな指が延びていく、枝、野原はやがて森になるのさ、




●yagate

かつて、から
たくさんの水は溢れて、
それを血溜まりと呼ぶ外人は歩き去り、
文法が手を広げる色彩の森の中で、
比喩されたいきものたちの、
かつて、に、
相当する言葉もないまま、
黒く透けた母や、父が、
何度も、芽吹いたり、
刈られたりする、

やがて、
しらないひとのくにから、
たくさんの羽音が聴こえるだろう、
俯瞰が群生する水際の、
明度、影が語彙をもつ白昼のさなか、
外人でありたかった私たちの黒い瞳がこぼれ、
外人である私たちの青い瞳がこぼれ、
森の血溜まりのなかに転がる、
転がった、瞳が、
一斉に割れ、
青い瞳から黒い外人が孵り、
黒い瞳から青い外人が孵り、
その上空で
夥しい数の父や母が、
騒がしい羽音を立てる、

(なぜ静寂として齎されないのだろう、)




今朝、
青い花が好きだった赤い少女が白い文法の群生する野原を駆けていく夢を見たんだ、
と、傍らの友人に告げる私の体は真っ黒でなぜか直視できない、
空から淡くひかる鱗粉が降ってくる、
なにひとつ比喩ではない浜辺で、


 

文学極道

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