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作品 - 20131228_677_7211p

  • [優]  生活 - しんたに  (2013-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


生活

  しんたに

 眠る前に設定しておいた、携帯のアラームで目を覚ます。洗面所に行き、歯を磨き、顔
を洗う。グリルで秋刀魚を焼き、プラスチックの白いまな板の上で野菜を切り、サラダを
作る。それらを皿に盛り、タイマーをセットして炊いておいた白米を茶碗につぎ、食事を
摂る(おいしい)。身支度をし、荷をまとめ、部屋を出る。駅まで歩き、電車の中でイヤ
フォンをつけ、録音しておいたラジオを聴く。死にも慣れる、と男の人が語っている。空
港で手続きをして、飛行機に乗る。遠くなっていく街や山を窓から眺める。ミニチュアみ
たいだなと思う(いつものこと)。仮眠を取るために目を閉じる。


 外には知らない規則が並んでいて、歩を進める度に破れていった。わたしの言葉は白い。
タクシーに乗り込み、予約しておいたホテルへ向かう。途中でコンビニへ寄り、パスタと
飲料水を買う(あと何回、いらっしゃいませとありがとうございましたを繰り返せば救わ
れるのだろうね)。ロビーで鍵を貰い、部屋に入る。真っ白なシーツに黒いスーツのわた
しが溶け込んでいく。遠くで人々が鳴り響いている。わたしはテレビをつけてみた。映し
出された人々が騒ぎ、争っている。映画なのだろうかと思った(映画だったのかも知れな
い)。水圧の弱いシャワーで髪と体を洗う。バスタオルで水を拭き、浴室を出ると、テレ
ビの中では相変わらず、消え去る前にと、保存された過去が現在へと言葉と画を喚き散ら
している。わたしはテレビを消し、ベットに入って眠りに就くことにした。街の喧騒が子
守唄を歌っている。


 スーパーで一本百円の青魚をトングで掴み、備え付けのビニール袋に入れようとすると、
見知らぬおばさんにこっちの方が身が引き締まってるわよ、と声を掛けられる。いや、こ
れで平気ですよ、とわたしが答えると、年を取るとがめつくなって嫌ねぇ、とおばさんは
笑い、去っていった。
 それが、わたしの書きたかった物語のラストシーンだった(それで、詩はどうしたの?)。

文学極道

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