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作品 - 20130913_998_7028p

  • [優]  −2 - しんたに  (2013-09)

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−2

  しんたに

汚れた波に壊れた時計が映る。そっと手を添えると脈打って、光の代わりに色の無い球体が水の中で揺れている。流されていく血液に逆らいながら、分裂するきみをぼくは見守る。石灰洞に取り残された高い街は白く塗られ、はじまりに戻される。

(黒い卵から生まれてくるのは犬だろうか? 英雄だろうか? 吠えるのは宣伝され、塔になった英雄だろう。最初の村の周りで雑魚敵ばかり倒していた、ぼくには塔の天辺に居る中ボスは倒せそうにない。愛しあおう、そうしよう、と言って村の女の子と結婚して、木の棒でも売っていれば良かったのだろうか?) 

きみは赤い線の上で迷っている。ぼくは行かないと伝える。歌のように。嘘。ぼくは何も伝えられない。ぼくはぼくの話を語るが、誰もそれに興味が無いし、そもそもぼくもぼくの話がしたい訳ではないので、ぼくは新しい街にぼくを作る。

(荒野では黒い卵が並べられ、木の棒で叩き割られていく。スイカ割りみたいに。中に居た犬も英雄もきみとぼくも離れ離れになっていき、炭鉱の街には誰も残っていない。鬼ごっこが恋で、かくれんぼが愛なのよ、とミセス・サンダーライガーは言って)

高いところを飛ぶ鳥の翼を引っ張り、引きずり下ろす。メーメーメー。そう、これは怒りである。

(道端に咲く花に意味を付ける為に、動く。たとえ、血が流されようとも。昆虫達は名も持たぬまま飛んでいった。空へ。時々、雨が降って、花は濡れた。ぼくはそれを窓越しに見ていた。暗くなる前に、着古した洋服を埋めにいく。新しい服を着て、香水も少しつけた。公園では子供達が影ふみをして遊んでいる。小さな女の子にスコップを借りて、深く穴を掘る。道ばたで音楽プレーヤーを拾う。再生ボタンを押すと、美術館に飾っておいた絵が泡のように消えた。青色で描かれた女神は祈るのを止めて、橋の上で踊り始める。停止ボタンは用意されておらず、止めるすべは無かった。ビルの改装工事が始まる。屋上に住んでいた猫は高く飛び、夕刊の小さなニュースになる。机の上に置いていたメトロノームが壊れた。これで、音楽家は音楽を作り始めるだろう。三ヶ月が過ぎた。ぼくがロックンローラーだったら、死に包み込まれているのだろうか。いまさら。窓を開けると、いくつかの影が、部屋から飛び出していった。手に止まった小さな虫をそっと潰すと、世界の反対側で電気技師の亡霊がコイルの電源を入れた。バリバリバリと音を立てて、地球が割れる。トリュフォーの短編映画を観ながら、最近、目の隈が濃くなってきたの、と言う人の横腹を掴み、引っ張る。挨拶の代わりに哀しげに微笑むから、眠いの? と嘯いて)
 
今はどこか別の大きな都会で映画を撮りたいと思っている。愛の映画かと言えば、もちろんそうだ。なぜなら、あらゆる映画が愛について語っているのだから。
                    ━━(レオス・カラックス)

文学極道

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