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作品 - 20130902_884_7007p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


以下の話はフィクションです、あるいは幽霊的なものです

  お化け

えーと、端的に言うと2013年の8月某日、彼は死んだ。死因はショック死なんじゃないかな。彼の直接の死因は僕にはよくわからないんだ。でも電気椅子で死んだわけではないのはハッキリしている。縛られて電気を流された、というものではないってこと。多分カミナリに撃たれたものかな。多分雨降りの日、人生でいちばん泣いた日みたいな土砂降りの日に外に飛び出て偶然当たって死んだ。多分そういう感じじゃないの。死因はわからないけど彼の気持ちなら僕にはよくわかる。彼は外に飛び出て叫びたかったんだと思う。彼は僕とよく似ていた。とてもよく似ていた。身体つきまでソックリだった。ガッチリした体型。彼は僕とほとんど同じ身長と体重だった。身長は180センチぐらい。多分寝て起きてすぐ測ったら多分181センチある。部屋のドアのところ、出入り口で少し頭を下げなきゃ頭がぶつかってしまう。そこが180センチあるって裏に住んでいたひとつ年下の友達のお母さんが言っていたのを覚えている・・・。面倒だから僕は身長を聞かれたら180って言っている。体重。彼が死んだときの体重は75~76kgぐらいだったと思う。生前は僕と同じで体重は結構変動した。太ったり痩せたり。太るのは簡単。痩せるのはそれより難しい。いちばん成功したダイエット方はウイスキーダイエット。なるべく食べないように生活して夜に腹が減ったら食べ物を吐きたくなるくらい安いウイスキーを飲む。ラッパ飲みするか、コップに氷をいれて冷やして飲む。店で飲むとはいつも後者。店で飲むとき「飲み方は?」って聞かれて「ロック」って言うのが何だか恥ずかしいね。カッコつけてるみたいで。だから「コップに氷入れてそのまま注いで下さい」って言う。まあ面倒なときはロックって言ってしまうけど。何回か行った店で顔覚えてくれているところだと「ロックでいい?」って言われて、うんって無言で頷くだけですむからいいね。でも店で飲むと高くつく。いつもブラックニッカかトリスってやつをコンビニで買って飲んでた。安いのはブラックニッカ。値段通りトリスの方がちょっと美味しい。でもこの2つのウイスキーはあまり美味しくない。ニッカウイスキーのフロムザバレルって51度のウイスキーは豊潤でとても美味しいけど、そういうのと比べると美味しくない。フロムザバレルは僕にとっては高いからあまり買わなかったし、コンビニには売ってなかった。バーボンウイスキーも飲んだ。アーリータイムズかジムビームが安め。バーボンは甘いから飲みやすい。ハーパーとかジャクダニエルはその2つより美味しいと感じるんだけど、ちょっと高いからあまり買わなかった。ハーパーやジャクダニエル買うならワイルドターキーの8年を買ってしまう。ターキーが大好き。ワイルドターキーの12年ってやつあるけど高いから飲んだことない。美味しいんだろうな。これ手土産に持ってきてくれる人がいたら大体のことは許しちゃうだろうか。スコッチもたまに買って飲んだ。酒屋で適当に安いスコッチ買ってたけど名前とかあまり詳しくない。でも特徴的な味がするから飲んだらこれスコッチだなってわかる。どうでもいい話だね。

彼は酒を飲んで外に飛び出たとき酒が入っていたと思う。人生でいちばん泣いた日みたいな土砂降りの日に。僕は彼の気持ちがよくわかる。僕はたちは似ていた。それで、彼は「人生でいちばん泣いた日」ってのはいちばん勘違いして欲しくないところって思うんだ。小学2年生のときだったと思う。僕たちは公園にいた。近所の子供たち10人以上は集まっていた。僕より2つ歳上の男の子と男の子がジャンケンをしている。サッカーをやるための「チーム決め」をするためのジャンケン。勝った方のチームに欲しい人を選んで取っていく。僕はいつも最初に選んで欲しかった。戦力になるって思って欲しかった。そんな気持ちがあって力を見せつけてやろうとか思ったんだと思う、僕は大きな石を持ち上げて力いっぱい投げた。そしたら石は前じゃなく後ろの方に飛んで、そこにちょうどいたひとつ歳上の男の子の頭に当たった。血を流して倒れた。動かない。そこからは何があったのか記憶が曖昧だけど、僕は泣いていた。男の子たちが協力して倒れた子を持ち上げて何処かに運んでいる。何とかしようとしてみんなで頑張っている。僕はその輪から外れていだ。僕は彼らについていながらただ泣いている。僕は殺してしまったと思っている。いつの間にか大人たちがいた。救急車がいる。僕よりひとつ年下のしっかりとした男の子が僕のところにやって来て「おい、泣いてないで謝れよ」って言った。僕はその子に対して泣きながら「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」って何度も言っている。「俺じゃなくて、あいつの家族に謝るんだよ」ってってその子は僕に命令するように言った。とても恥ずかしくて悔しかった。僕は倒れた子の母親のところに行って泣きながら何度もゴメンナサイゴメンナサイ。僕はこれから警察に捕まるんだって思っていた。このときが僕がいちばん泣いたとき。結局、僕は警察には捕まらなかったし、倒れた子は死んでいなかったけれど、これ以上泣くことは僕の人生でもうないと思う。そして僕が思うに、彼が死んだとき降っていた雨は、多分こういう涙みたいな土砂降りの雨だったってこと。あとよくわからないが、部活してなかったけど中学生の頃、校砲丸投げが学年いちばんだった。

あの日、彼はとても悲しかった。いちばん泣いた日がいちばん悲しかった日とは限らない。14歳の冬に近い秋ごろ、そこらへんの時期がいちばん悲しかった。身体の力が全部抜けていくような喪失感。父親が仕事で上手くいかなくなって転校しなければならなくなった。母親は精神病院に入ることになった。転校先で僕は無口にだった。誰とも関わらないようにした。友達はいなくなっちゃったし、つくろうともしなかった。そんな感じかな。嫌な思い出だからあまり話たくないね。まあこれは僕の話ではなく彼の話だけどね。昔は友達がいたんだけど、その時期から今でも地球人には友達と言える人はいない。地球人ではない友達ならいる。火星人の友達。水星人の友達。木星人、金星人、土星人、それから無数の幽霊たち。みんなとっても優しくしてくれる。僕と彼には共通の変わった友人ができてた。向こうからすれば僕たちが変わっていると思う。彼は死んだのだから僕には幽霊の友達がひとり増えたことになる。友達がひとり増えて嬉しい。僕は彼に会って「首釣って死んだ人を探して」とお願い事をした。あの日会えなかったから。小学3年生のときだったと思う。僕は木の棒を持っていた。家にあった壊れた椅子をさらに壊して武器になるような棒の部分だけを持ち歩いていた。僕の後ろのには棒を持った子供がたしか5人いた。そのうち2人は女の子。そのひとりは同級生。もうひとりはひとつ歳上。そして僕の目の前には制服を来た警察官がいた。僕がいちばん歳上というわけではなかったけど、おそらく僕がいちばん身体が大きかったから、僕が悪いことをしたリーダーにされていた。その棒で窓ガラスを割ったんだな、とか警察官は見当違いのことを言ったけど、面倒だから弁明はしなかった。僕はたしかに窓ガラスを割ったけど、ボールをぶつけて割った。ちょうど鍵のところが割れたから鍵を開けて入った。まあ、僕がリーダーでもいいし、窓ガラスを割ったのは本当のことだったからどうでもいいと思った。僕たち経営者が首吊り自殺して閉鎖したって噂の工場のガラスを割った。割って工場の中に入った。出てその辺をうろついているときに警察官に呼び止められた。誰かが見ていて通報したのだと思う。工場に入ったとき、暗くて怖くて、結局、僕たちは入ってすぐに外へ出てしまったんだけど。今度は見つけられるかな。首吊りした経営者。彼はもう子供じゃないんだし暗いところも怖くないと思うよ。

死んだとき彼は31歳だった。「俺らの同級生の女はもうみんなババアだな」とプレハブの休憩場で30代前半のヤクザのお兄さんたちがそう喋っていたのを思い出している。19歳のとき短期間、泊りがけでする土木の仕事をして、そのときはじめて送られた現場がたまたまヤクザのお兄さんばかりのところだった。昼休みのときお兄さんたちの誰かに缶コーヒー買ってもらってて、喉乾いていたから、いつも貰ってすぐ蓋開けてガーって一気にガブ飲みしてたら「もっと味わって飲め」って怒られた。頑張って仕事して、刺青をした人たちと大浴場に一緒に入って、ご飯食べて、いちばん目上の人の部屋に集まって酒飲ませてもらった。両手の小指がない40代後半の人が知っている人がやっている風俗に連れて行ってくれると約束してくれた。内側から見たらいい人たちだった。別の面では悪い人たちなのだろう。風俗に連れて行ってもらう前に仕事は終わって関わりはなくなった。あの時からもう10年以上経っている。僕は今31だ。彼は31歳で死んだ。僕の同級生の女の子今はもうおばさんみたいになっているのだろうか。僕のなかでは中学2年生の姿で止まっている。転校する前に最後に学校に行った日、違うクラスの女の子が僕が次に住むところの住所を聞いてきた。幼稚園のときがいちばん中が良かった同級生。家が近かったから幼稚園には一緒に歩いて通っていた。僕は「わからない」って言った。その日あったお別れ会で、クラス全員のメッセージが書いてある色紙を2枚もらった。男子の色紙と女子の色紙。転校して何ヶ月かあと、その色紙を見つけた僕は破って捨てた。いちばん仲が良かった友達のメッセージだけはカッターで切り取って机の中に放り込んでおいた。「負けるな」って書いてあった。僕はこの言葉に励まされたわけではない。あいつが書いたものだから捨てちゃいけないと思った。それに僕は彼を裏切っていたかもしれなかった。僕は転校するということを自分の口から一切話さなかったから、多分もう裏切りたくなかった。そのとき僕は負けていたのか、負けていなかったのか。勝っていなかったのは確実なことだ。全部嫌だった。転校先の中学校では砲丸投げが2番だった。野球部の人に負けた。

もう嫌だね。僕は小さな教会へ行こうと思う。そういう気持ちだね。僕は無宗教で、自分のお葬式はお坊さんが来るのかもしれないなという意味でなんとなく仏教徒なのだが、教会に少し知ってる女の人がいるから行く。元気かなと確かめるために行く。行くのは他の理由もあるがそれは言いたくない。教会の彼女と会ったのは、彼が死ぬ数ヶ月前。僕は祖母が入院している病院に行くため駅の前から出発するバスに乗ろうとしていた。バス停に、おとなしくて恥ずかしがり屋みたいな感じの、20代半ばぐらいの外国人の女の人が立っていて、時刻のところじっと見ていた。俺はその近くのベンチに座った。バス待ちの人が並んでいた。外国人の女の人はその列には並ばないで、ずっと時刻のところを見てる。バスがきた。並んでいた人が乗り込んでいく。外国人の女の人はいちばん最後から乗り込んで行ったけど、運転手の人に話しかけてすぐに出てきた。またバス停の時刻のところをじっと見ていた。そのバスではないバスに乗るための人がバスに並んでいる。俺は立ち上がってその外国人の女の人に「どこまで行きたいんですか?」って聞いた。そしたら行く場所教えてくれて、俺が次乗ろうとしていたバスに乗ったらで止まる場所だったから「もうちょっと待っていればきますよ」って言って、僕は戻って、またベンチに座った。そしたら、ゆっくり迷うように僕はのベンチの近くにきた。僕は隣に座るように勧めた。恐る恐るという様子で端っこに座った。バスが来たら一緒に乗り込んで、椅子がもう空いてないから立つことになった。どうもありがとうございます、とかいってポケットティッシュ2個くれた。その人教会の人で、その関係で日本に来ていて、って話になった。「勧誘じゃないんですけど、もしよければ」ってパンフレットくれた。そのパンフレットはもうなくしてしまった。覚えているのは「死にたい人はきて下さい」というようなことが書いてあったこと。その教会行ったら彼女に会える。その日、祖母がいる病室でカップラーメンを食べていたら看護師さんが入ってきてカワイイと言っていた。少しいいことをしたから少しいいことがあったのだと思うことにした。

何だろうね僕は。終わっている。何がしたいのだろう。何かはしたいんだよ。未来の人が僕がしたことの記録を保存し続けてくれるようなこと。本のカバーのところに著者の顔写真がついているときあるよね。著者が長生きしたときは写真は老人。そういうのちょっと気になる。例えば、太宰治は38までしか生きていないからそれ以上年取ったときの顔はない。太宰治は老人ではない。太宰治とは「あの顔」ってことなる。歴史の記録として。哲学者のバートランド・ラッセルなんて98歳まで生きたからもう老人。僕が前に読んだ本についていた写真では老人だった。ラッセルさん、老人でも結構いい顔なんだけど。若い頃の写真見たらもっといい顔している。本を書いているような有名人って晩年の写真が使われる印象がある。人生があって、時間が流れの中で顔が変わっていく。自分の本当の顔って何歳ぐらいだろう? それがわかったらそのぐらいの時期に死ぬべきだよ。本当の顔で記録に残りたければ。女の子は不利かもね。なんだかんだ言ってやっぱり20代ぐらいの若い頃がいちばんいい。10代がいいって場合もある。若くなきゃ興味ないだろうなって思う女の人は結構いる。そういう人はセックスがしたいような女としての部分で勝負している要素が強い感じがする。鳥居みゆき、って知ってる? 芸人。本も出しているらしい。僕はまだ読んでいない。その人は僕と同じぐらいの歳みたいだけど、30歳ぐらいのあの人は可愛いと感じた。男は、年取った方がいい場合はありふれている感じがする。まあ、今している話は、記録に残ることしなきゃ意味ない話だ。彼は記録に残るようなこと何にもしてない。それは僕も。頑張ればこれから何とかなるかもしれないって思いたい。何でこんな話してるのかな。最近はほとんどテレビ見ないな。

相談したいことがあるんだった。そういえばして欲しいことがある。ロクデモナイ僕の話をここまで僕の話を聞いてくれているロクデモナイ君にロクデモナイコンビニに行ってほしい。ロクデモナイ・セブンイレブン限定。ロクデモナイ店に入ったらロクデモナイコピー機の前に行って。そしたらロクデモナイ・コピー機の画面があるから「ネットプリント」ってところをタッチして欲しい。ロクデモナク番号を聞かれると思う。ロクデモナイから「83015566」と入力する。そしてロクデモナイお金の投入口に20円入れて手続きを進めていったらコピー機からロクデモナイ白黒の顔写真が出てくる。これが一枚目。2枚目の番号は「22156740」。3枚目の番号は「21211569」。3枚だから全部で60円かかる。僕にはこれを強制できる権限なんてないから60円払いたくないし、面倒って人は自分がしたいようにした方がいい。どうせロクデモナイ写真だから。ロクデモナイコピー機から出てくるロクデモナイものは3枚とも死んだ彼の顔写真。いま彼の葬式の写真にどれを使おうかなって、迷ってて、僕は君の意見が聞きたい。ロクデモナイ葬式の写真を決めなくちゃならない。60円払ってくれた人はどれがいいか選んで欲しい。選んだらできればメールで教えてくれたら嬉しい。だけど、実はその写真、正確に言えば僕の写真なんだけどね。彼の生前の写真が見つからなかったから、僕の写真でもまあいいかなって思って撮った写真。僕と彼は似ているって言ったよね。あ、でも、もっと正確に言えば写真は僕の写真ではない。この誰かさんは正確に言えば本当の自分ではない。少し美化した自分というのが正しい。何枚か撮って「よく映った」と思ったやつだけを選んでいる。そういうものだよ。実際に僕と会ったとしたら、自分が選んでいないものをたくさん見せることになる。君も僕にその面を見せることになる。僕たちは僕たちが選んで生まれてきたではない。僕たちは僕たちのこの遺伝子も選んだわけじゃない。男になるとか女になるとか、こういう顔になるだとか、数学が得意だとか苦手だとか。だけど、僕たちは選んだものではないものを受け入れなくちゃならない。他人に対しても自分対しても。ロクデモナイ現実でも現実に向き合って生きるのがきっと正しい。逃げたら何も「出来事」と言えるものはは生じないんじゃないかな。摩擦、矛盾と言うかね、そういうものが自分の痕跡になると思うんだよね。僕が「誰か」でなければいけないとしたら、僕は何かを刻むために産まれてきたし、何かを刻まれるためにも産まれてきた。傷つくことを恐れてはならない。逃げるたびに僕は何者でもなくなってしまう。僕は目をそらさない。本当のことがわかったら壊れそうなとき。

彼は死んだ。僕は死んでいない。彼が死んだとき僕は羨ましかった。僕はこれからも死にたいと、彼を羨ましく思っていく。逃げないと死にたいと思う回数は増える。自分から行かなければつかめない。赤ちゃんの生きる目的は? 人間はみんな最初は生きる目的なんてなかった。頑張らなければならない。頑張っていればいいことに出会うことができる。それ以上にわるいことにも出会う。どうすりゃいいの。でも頑張るしかない。僕は同じことを何度も言うだろう。色んなことに影響されてブレてしまうから。僕はもう若いとは言えない。僕に残された時間の中で僕は頑張る。こんなにたくさん人がいる中で、僕は僕が会う。ん、? こんなに人がたくさん人がいるから、仲間を探すのは難しい。「名前未定詩人会」というのを立ち上げた。人間と人間の関係性が紡ぐ意味の世界にしか僕が望む自由がない気がしている。誰もいないところで一人で暮らしている人が持っている自由を羨ましいと思わない。何か出来事を作りたい。僕はメンバーと会う。生きた人間と人間が会う、何処でも生じていることだけど、いま現実に会っている人と比べて、その人より近いと感じる人がいるなら会うべきだと思った。だからメンバーの条件のひとつは「会える」ってことにした。僕が住んでいるのは北海道。札幌近郊ぐらい。そのぐらい地域だと会いやすい。メンバー募集。「名前未定詩人会」に興味がある人はメール下さい。ああ彼の葬式あるな。写真選ばなきゃ。「さようなら」って言ってくるよ。コピー機のネットプリントの写真は多分、気まぐれでそのうち登録を削除してしまうだろう。忘れたいことがたくさんある。もういいか。





































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