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作品 - 20130826_826_6996p

  • [佳]  夜蝉 - にねこ  (2013-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜蝉

  にねこ

反響する、草にむせる
誰でもない
咳、ひとすじ
またたくように
歯噛む、隠れ、
隠し音の涼やかな虫
羽根、その羽根、
ふるえる律の階段を
降りた

走査される、感情、
朽ちた木が幾重にも
剥がれて
その声が、積む
額縁化された抜け殻の果て
ひらひらと
「散っていくのですね」



渦巻き叫べ



「ここにはありませんでした」
夜半の楽譜に彩る
気違われた数々の詩に
僕は死に
撓む背骨の質量を
天秤にかけた
心臓が打つ数だけ愛したと
指を舐め数えるしたたかさを
眼鏡についた指紋の曇りを
拭くふりをして通り過ぎる
鍍金した言葉と
あなたへの葬列
不確かな
とても不確かな

こえ、?



『聞こえますか、いまでも』



汗だけが生きているように
背中を流れていきます

公園には私ひとり
水銀灯が震えている
影を隠すように植物が佇んで

それだけで十分でした
それだけで十分でした
泣けました
泣きました
ほんとうは
泣けませんでした
水分は汗にすべて使ってしまって
むしろ私が涙でした

それを静かにすう、植物、

は、優しい…?




((((ひしゃげた空は黒檀の瞳の海に浮かぶようでした、街灯の独り立ち、その下でうずくまる、うずまく黒髪の中に守られているという本質が、しっぽりと闇に蒸れる夜に、プリズムのネオンが、うつくしくそうして不安定な)))

、まま。



「ひかりが欲しかったのです」、「塩辛い海から掬い上げてくれた断絶のハサミのような」、「冷酷が仄温かく下腹部を満たしていきます」、「声をかけられているのでしょうか」、「それとも罵声でしょうか」、「細すぎた足が樹皮に傷をつける前に」、「滴ったのは血液ですか」

、それとも。



(((たなびく前の、白い、
しいたげられた息を凝る)))

(((呼ぶ声、声がくちびる
震え耳が浸透していく)))


セックスしましょう、セックスしましょう、
あなたのことが好きなのです
だから、どうしてもセックスしましょう
私は孕みます
私によく似た
私の子供を
そうしてその子もまたあなたの名を呼びます
セックスしてください、
あなたが眩む万華鏡の底で
とても不安なこの体を埋め尽くすのは
あなたの名前に他ならない
あなたとして私の愛を受け取るために
あなたとあなたが交合する
その愛を


(((しんとした面持ちさんざめく
残響、の恐懼の破片)))

(((青ざめたるは、褐色の)))


腹に何かをいれねばなるまいと、
そう思って空を開けた、冷え切った空には
いつ買ったのかわからぬビールと
干からびたチーズ
展望台より落下する速度で、
啜り上げた涙では酔えぬと
左頬、かじりついたあと、
私が半月になる


(((嘘つきの羽が空に粘液を綴る、
星々をひいて、物語となる、それは、
治療です、あなたを漣む、
満ち引きの命、たとえば)))

恋やもしれぬ、空蝉の

接続されていく
埋没された記録、その軌跡
誰のものでもない
紐解けない物語
という、ひゆ、


打ち捨てられた
殻の中には不思議な紐が残っていました
すべてが琥珀色に透ける中に白い懐かしみが
あえかに震えるエニシダの枝のようで
どうしてこんなにも白いのでしょう、
あなたに結びついた黄昏
手折るのは容易いけれど、
「残しておきましょう」、「きっと彼は帰ってきます」
紐の先っぽはぐるぐる巻いて
空を飛んであなたに会いに行くこともない

迷い込んだ夏の夜の
角を曲がるたびに細くなっていく
あなたへの想いの迷宮が
こころもとなくて


/しがみついて泣いた
/しがみつけるのなら泣いた
/しがみつけなかったから泣かなかった
/かなかった、かなかな、
/なかないかなかな、かった
/なかったかなかなかな
/なかなか

、いない、。


大きく息をすった
この身体にはもういらないものが多すぎて
たくさん捨てていく
本当に大切なものを手にするためには
私の体は小さすぎて、
だからあなたの栄養を
分けてもらいたかった
私の中にわだかまる命の
震えがいま、私を産んで
だからわたしは空っぽなんだ
その空っぽを闇に浸して、
声を限りに、
なけ (いた、いない、ない、声、


呼ぶ声が聞こえる、


この息が尽きたら死のう、
この死が尽きたら息よう、
わたしが欲しかった光は
いつしか無数に林立する街灯に紛れ込み
わからなくなりました
そのしたにたっていたあなたの
すがたもかげに紛れてしまって
どうしてわたしがないているのかと
問うてくれる人もいませんでした
だからわたしは朝を待ち
それから、ご飯を食べにいきます
あなたがくれなかった栄養と
光を浴びて
誰かの叫びを保存し続ける
脆弱な皮のまま
水分を静かに吸いあげる
植物になりたいと、
そう思うのです

文学極道

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