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作品 - 20130817_781_6993p

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おばけのかけら

  熊谷


*
妻が妊娠したと聞いた夜
ふと目が覚めてトイレへ行くと
便器にちいさな気泡がたくさん浮かんでいた
肌色よりすこし赤みがかかったそれは
人間になる前の状態を思い起こさせた
そして僕は一晩じゅう、そのひとつひとつに名前をつけていた
夢中になって、つける名前がもう何も浮かばなくなって
思わず、自分の名前を口にしたときに
ようやく朝はやってきた
何だか変な夢を見ていた
おはよう、君がうまれてくるのを
ずっと待っている

*
夕方に湯船につかってうたた寝をしていたら
去年亡くなったおじいちゃんが立っていた
ずいぶん若い頃の姿で体を洗っているのを見ると
今の恋人に何だか似ていて
特におしりの形がそっくりだった
もう一度会えた嬉しさと
まだこの世をさまよっていたのかもしれないという悲しさで
涙がじんわり浮かんで目の前がにじんだ瞬間
もう姿は見えなくなっていた
おやすみ、おじいちゃんがゆっくり眠りにつくのを
ずっと祈っているよ

*
デートが終わって家で着替えをしていると
スカートの裾には必ず煙草の匂いがついていた
今まであの煙には嫌悪さしか覚えなかったが
あなたから吐き出されるそれはあなたの分身みたいで
何だかとても愛しかった
けれど、私の服にしがみつくあなたのお化けは
最近どこかへ消えてしまった
試しに自分で吸ってみたり、煙草を吸う男の子と遊んでみたりしたけど
その匂いを好きになることはなかった
さようなら、あのお化けがまた違うスカートを見つけることを
ちょっとだけ応援しているよ

文学極道

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