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ミサイルかな?と思ったけど、青リンゴだった。天気予報は嘘をついた。預言者も嘘をついた。みんな嘘をつきすぎて、こんな結末は幸福なんだ、なんて言ってた。空から、バラバラと、降ってくる青リンゴは、すこし跳ねたあとに、破裂して、青い炎が発火して、青い草原に、青い野火がひろがり、天気予報士は真っ青になり、預言者は青空に逃げ去り、青リンゴは降りつづけたので、ぼくたちの瞳は青く染まり、青い炎はどんどん燃え盛って、ぼくたちの瞳は真っ青になって、ぼくたちは、動物も、植物も滅びた。たとえば、白鳥たちは群れで横たわりながら、自分たちの白さを呪っていたが、青リンゴはそれでも降りつづけて、地球はさらに青くなってしまった。ひどく甘くもなってしまった。赤はなくなってしまった。やがて赤くない色も、青だけを残してすべてなくなり、ぼくたちは、青リンゴと等しくなりながら、ひどく甘くなりながら、どこまでも青に浸されていった。最後まで戦って、死のう、という雄々しさまでも、青く、青くなってしまい、それは、最後まで戦ったあとは、アップルパイを焼こう、というふうに、ひどく甘くもなってしまうのだった。
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「絶望から逃げろ。」お祖父さんは[一の駅]を過ぎたとき、そう言った。車窓の外で、交戦状態にある風の連隊が花の敵機を撃墜していく。「雲の上には神様がいる。誰かが死ぬと宴会をする。だから雨は酒だ。神様たちの口からこぼれる、パンの滓は、雪。と呼ばれるし。酒盃からあやまって零れる数滴の酒のことを。雨と呼ぶのだ。」雹は唾だそうだった。[二の駅]を過ぎたとき、お祖父さんは眠ってしまった。まるで、音楽に聞き惚れるみたいに、ゆっくり、ゆっくりと、頷いていた。車窓の外で、水平線がそれとない曲線で広がり、その3分の1くらいのところで、帆をめいっぱい膨らませた船が、とかしすぎた水彩絵の具の色をしながら、画面の奥に消えていった。[三の駅]を過ぎたとき、お祖父さんはガラス瓶になってしまっていた。その中に紙片が入っていて、それを取り出す。「愛から逃げろ。」列車はトンネルに入っていった。トンネルを抜けたら、青空だった。[四の駅]を過ぎた。[五の駅]を過ぎて、[六の駅]を過ぎて、[七の駅]を過ぎたのに、ぜんぶ青空だった。
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万策は尽きた。敵の大群はもう眼前にせまっているのだ。しなやかな四肢を猛らせる彼らは、美しい刺青をくっきりと浮かびあがらせている。ぼくたちは武装を解いて芝生に仰向けで寝転がり、殺戮がはじまるのを待った。空は冗談のように青くて、雲も、ベースボールも飛んでなかった。さっきまで、おとぎ話にでてくる、生きている怪物の森のように、たくさんの軍旗が賑々しく林立しているばかりだったが、いまはすこしづつ、歌が聴こえるようになっていた。その歌の詞は意味を保てずに、和音に溶けてしまい、やがて聴こえる軍靴のタップダンスが、調子をすこしづつ軽快にしていった。そろそろ始まるのだろう。まずは弓矢だ。あなたたちは、青空に狙いをつけながら、弓弦をめいっぱい引き絞る。歌も。仲間も。呼吸もなくなったときに。あなたたちは矢を放つ。矢の群れは跳ね上がって、青空のいちばん高いところで、いちどだけ翻り、新しい色を思いついた順から、雨として、ぼくたちに降り注ぐだろう。そしてひとり、ひとり、と、ぼくたちは雨に打たれて、終戦していく。雨粒がぼくたちを貫き、その鮮血が舞うとき、世界は赤という色を思い出し。意趣を凝らした羽根のさまざまな色が、本当の色を思い出しながら滑空し。敵兵は声を上げ突撃する。つややかな毛並みの馬群が、虹色のアーチをくぐりぬけ、鋭い剣をふるって、その度、ぼくたちの鮮血が吹き出て、ちいさな虹がいくつも吹き出て、世界は色という色をそのときだけ思い出しながら、ぼくたちと、あなたたちと、虹と、青と、等しいものになりながら、焼きあがったアップルパイのする、ひどい甘さを(空、光がどんどん光量を上げて)ぼくたちは思い出していた。
最新情報
選出作品
作品 - 20121124_752_6494p
- [優] 青空 - コーリャ (2012-11)
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青空
コーリャ