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作品 - 20121123_707_6491p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


秋にめぐらす 三編

  鈴屋

道に立木の影はやつれる 野づらの菊花は しろじろと霜に臥
す 民族が曲がり来たった いく千年 土壁の 蜘蛛の眼は寄
りつつあり ヤモリの眼は離れつつあり山里に 最後の人々の
記憶が生きのびていく耳鳴りの 森に隠れた少女よ 死臭まと
わる処女よ 振り向きざま 「ほら」と笑んでは とりどり宝石
と見紛う臓腑を きらきら散らかす秋の長夜

 +
  
ネコジャラシが風を 批判している坂の上の 生ハム色の雲の
舌がねぶる窓辺で 夕空見つめ涙ぐむ 少女よ 神を「神様」
と呼んではいけない 神は命名を忌む せめても「嗚呼」と小
さく喉を震わせなさい あなたは見つける 立ち去った神の 
もはや 消えのこる白衣 あなたはいつだって 運命のように
遅れ わたしはといえば 町はずれの変電所を見学し 落葉ふ
みしめ舗石に歩をたがえ 勝手口から 蛇口に至る技術的な秋

 +

秋 少女の古典的な靴音 駅 町 道 辿る 孤独な母国語 
少女が日暮れの街角で 死のお菓子を街頭販売する 紅いリボ
ンと微笑をそえて 行きかう民族に 売る 星空のもと お歯
黒のような家並みの 乏しい窓明かりを横目に わたしは帰る
帰る? いずくへ? 死のお菓子を一口 口に含めば 冷たい
甘みが溶けだし薄荷が すうすう わたしを捨てて 身体がか
ってに先を行く 

文学極道

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