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作品 - 20121017_070_6418p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ヤングタウン

  debaser



気がつくと、きみはぼくに向かって語り始め
語り始めるとすぐにそれをやめてしまう
それをやめてしまう理由を尋ねると
それをやめてしまう理由はそれのせいだときみは言う
でも本当にそんなことだろうと今このしゅんかんにぼくは思った


ぼくたちは同じ顔をしているのに口々に違うことを言いたがる
同じ写真を見てそこに違うものを見たり
違うカメラマンが撮った二枚の写真に同じものが写ったりする
ぼくの名前がきみの名前だったり
ぼくの父親は母親なのかもわからない
ただ不思議なことに解決の糸口がいつまで経ってもみつからない
それでもきみは書いたり書かなかったり
ぼくは読んだり読まなかったりする
ぼくがああやるあいだにもきみはこうやって
マッチいっぽんかじのもととともに
いつだって用心しているきみの家は燃えている
たとえぼくの家が燃えていないにせよ
どっちみち、ぼくたちの用心はたりていないに違いない


紙に書きとめた嘘も
キッチンでだんなについた嘘も
間違って本当になることも
全部がうみのそこに沈んでいる
うみのそこからやってきたはるという名前の女の子が冬になって
冬になってまっしろな雪になる
まっしろな雪は降り積もってはるになる前に溶けて違う女の子になるのは
来年のはるかどうか
わからないけど来年のはるだったら
はるがはるにならなくてもちょうどいいのに


右に綴じられた本の左にならべられることばは
いつもタッチの差で誰にも届かない
指の先になにかをくっつけても
舌の先をのばしても
ことばのならびをひとつくらい変えても
ことばのならびをまるで変えても
誰にも届こうとしない
そのことの謝罪会見は5分遅れで始まって
ぼくたちはただひたすら
鵜呑みにしてすいません、と繰り返す
カメラのフラッシュが人のかたちの点線をなぞり
そこからはみ出そうとするぼくたちもまた
あらためて、鵜呑みにしてしまう
最後に質問をした女性は
マイクを放り投げ、空中できれいに3回転するマイクが


きみの家とぼくの家は決まって留守だった
呼び鈴はどっちの家にもつけられ
片方を押すと片方が鳴る
その仕組みを考えた人間はもうとっくにいない
それに世の中はその前提がなくともどこまでも便利になるのだろう
きみの上手なピンポンダッシュを見届けて
ぼくはへたくそなチョコレートUSAになる
どこの家にも飼い犬などいないということを
新聞は今ごろになって書いている


月曜日、死んだ人が生き返る魔法を習う

火曜日、どんな女の子もどんな男の子を好きになる魔法を習う

水曜日、永遠に若返らない魔法にかかる

木曜日、永遠に年老いない魔法が解ける

金曜日、死んだ人が生き返る

土曜日、どんな女の子もどんな男の子を好きになる

日曜日、ここはヤングタウン

文学極道

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