鯱の泳ぐ
ちいさな海辺の町の
ちいさな家に
海は潜んでいる。
右手で白いツバ広の帽子をおさえ
女は
吹き荒れるちいさな家の海を見つめ
今日も待っている。
気の遠くなるほど待って
気の遠くなるほどの苦痛を重ねても
跳びはねていたあのレオタードの頃には
戻れない、と知った夏
女は
話すことも食べることも立つことも笑うことも捨て
何もかもを捨て
風の鳥になって自分の中の海へと飛び立っていった。
空が笑う青のかなた
女がいつも被っていた帽子が
虹色の潮を吹きながら
鯱を食っている。
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選出作品
作品 - 20120928_553_6375p
- [佳] くじら帽子の女 - 草野大悟 (2012-09)
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くじら帽子の女
草野大悟