第一景
わたしの街には誰もいなかったので
牛舎に行った
みんな疲れきった顔をしているけど
なんか楽しくなる歌を歌って最後くらい楽しませてよと牝牛に言われた
わたしが見ている映像には
角砂糖で模造された獅子舞が溶けて
ひょんなとこで半分かもしくはそれ以上になるものが映っている
それに思っていることを口に出す勇気があっても
とっくの昔に親しい恋人にあげたっきり
金庫の中から
XとYにそれぞれ好きな数字を代入して
徴税の法に照らし合わせたりした
工夫のせせら笑いと
ストリップ工場と
そのラフマニノフの娘と
持参金が千円にも満たない強欲な役人と
それがなににも転じなかったという寓話の途中で
異郷から帰ってきた親類が
グリッセリンのキャンディ・キャラメルの布に包まれたという
実はその法則というものが成立するために飼い主の前で
百段の梯子を犬のように上り下りするというのだ
そうとなれば避寒旅行に出かけるしかないと愛人は思ったのだろう
わたしが知っている気象の分野では
羅針盤に新しい方位というものが発見されたのもちょうどその頃だ
抜け目ない大学教授がそれを論文に書き
制服のガードマンが猛烈な歯痛を訴える
そこには二両連結の列車に空気を吹き込む車掌の妻と
止まるあてのない駅から発車する列車の時間に合わせて
やることのすべてを終え寝るしかなかった小説家がいた
しかしこの部屋は彼の書く物語の意に反してどうやら禁煙らしい
しかしこれすらも下着売場で下着を買いあさる女の仕業に違いないという予感があった
小売店で流れる音楽をバックに、そしていいことこれすらも第二景へ続くのよと女の声が言った
もはや受話器にむかって叫ばなければいけないことと
物事の順序について
それはちょっとした推理小説の名探偵が
巧みにあやつる魔術的合体から容易に連想されると言っても差し支えはない
それに若き日のトムは
老いぼれたトムを呼び止めて
もはや事実の証明に時間という概念を援用するのは手遅れだということを知っているので
白スカートがめくれあがる地下鉄の9A出口の付近で
イエスと答えたきり
黙りこくった
けたたましいブレーキの音もしない
これまでのコメディは失速したまま
犯人は先に読者にこんなふうな問いかけをする
新聞売店に明日の朝届くイブニング・ポストの一番小さな広告に
汚い小便をひっかけてしまいたい
答えは、あるヘビー級の選手に
それ相応のパンチをもらい、わたしは力なく倒れた
悪質な主人は玄関先でテレビの取材にこう答えるのですよ
この平板で退屈な哲学を
引退間際の劇場の支配人の財布の紐で
ぐるぐる巻きにすりゃいいんだぐるぐる巻きにって
第二景
兄は本物の口ひげの横に黒子をつけて
お蔵浜州からやってきた女と知り合いそのまま不幸な結婚をした
その新しい方位へ動いた結果がこれだとして
わたしの耳は疑いもなくFMに向いた
こんな最後だけは勘弁して欲しいという
売文が芝刈機のマニュアルに書かれ続ける
大平原に書かれ続ける
まぎれもない平行六面体のすべての面にそれは書かれ続けるとして
それはやすむことなく書かれ続ける
最新情報
選出作品
作品 - 20120927_509_6372p
- [佳] (無題) - debaser (2012-09)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
(無題)
debaser