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作品 - 20120621_383_6162p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


梅雨時

  鈴屋

日毎、わたしが生きている街はとても親切
わたしの死のありもしない謂れを探る
 
傷を歌う本を読み
紙とインクの海岸線を燃やして 
センタクバサミの辻褄に暮らす梅雨のさ中
紫陽花の青は定まらず
薔薇は不完全に美しく
窓のアリアはとてもたいくつ
ビタミンを五粒のもう、ミネラルを噛み砕こう
肉と骨ではなく、眼差しのさびれに抗うため
          
雨雲が退いて
昼下がりの街は日差しと蒸気につつまれる
つかの間の青空をチガヤの綿毛がさわさわ渡り
生乾きのアスファルトからは、いい匂いがたちのぼる
わたしの手のひらで死んだ燕のなんという軽さ、明るさ

見上げる駅舎はわたしの教会?
厳粛に佇むエスカレーター、懺悔のプラットホーム
電車にのると現世が漂流していく
傷を歌う本を拾い読みしながら、世界を滑っていけば
車窓から望むなにもかもはちゃちな小道具にすぎない
海よ、地動説のはかない海よ
陸地は女神の排泄の痕跡 
文明は地球の黴
オーロラはだれの睡眠?
日も月も惑星も糸で吊られた発光パネル

わたしが
どこかをさまよっている
彼はいう
「逃奔の果て、山は霧雨に濡れ、枇杷の実が灯る。紫煙を吐く寸暇、眼差しは無為に親しむ」
部屋の窓を開け放つ、レースのカーテンの裾がおどる
コーヒーを淹れる
なにによらずタバコは悪い習慣
壁にかかる、わたしが描いた川の絵は
逆さにすると川が空になる、名画だ

文学極道

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