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作品 - 20120528_006_6118p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


”38w”とそのほかの詩篇 

  中田満帆

38w(「Feelin'Bad Blues」改作)

  かつてのひところたのしかったものだ
  いまだっておそらく
  やまなすびや  
  けむりきのこが
  わたしのともだち
  にちがいない
  あるいはやっては来ないみどりのからすのようなもの

  いなくなったのはわたしのほうで
  どの路次をかよっていようが
  はらからもなく
  はらわただけが温い
  ただれるようなうめきのうち
  そこに起っているしかないのだ 

  あこがれてたいづれも手にできない
  たやすい職すらもたやすくかたづけられ
  わたしは夢のうちっかわでけたたましい自動車どもが身を這うのを聴く
  それはかつてすばらしかったはずのもののために奏でられる弔い唄
  つまるところなにも起こりはしない
  つかみとることやだきしめるなにもなく
  ただ窓からみえるのはかがやかしい宿たち
  Hotel TOM BOYやHotel juke box そしてHOTEL QUEEN
  それらの燈しだけがほんものの、光りだ

  だがわたしの手にできるのは38wの電球
  そいつはたなぞこにあって光りを失ってる
  昏らくなっていくちいさな室で
  ひとりそいつを握りしめ
  そいつが
  ばちん
  とくだけるまえに
  そっと戸棚のなかへしまった


    いったいこいつはなんなんだ?



当宿泊所の門限は午后11時までとなっており、(初投稿「さまよい」改作)

  がらすのうちかわにあるマネキンたち
  かの女らに情慾をおぼえるときがある
  それというのも
  そこに悪意も
  いぢのわるさもなく
  あぶれものを癩
  のようにすることもなければ
  いついつまでも責めたてるのも
  なかみのないうちできず
  をつくりだすこともない
  ましてどやや
  橋のたもとにいるけものへと
  ふきながしていくこともないだろうから
  たっぷりと眼をやっては過ぎ去る

  だがいまはそんなにたやすい光景ですらも
  とうに売り買いへだされてしまい
  あてを知らないもの
  失いのうちにいるもの
  隠しをからにしたものなんかがあたまにするのはみずからのみだ
  つまるところ手折れた茎にすべてがあるということ
  ほかを赦されないとき
  鉄柵を握る
  それはふるえとともにあってたなそこを焼く

   莨をくれないか、ねえ?
  ときおりなにかが声をかける
   すまない、もってないのです
   喫んでいそうなつらなのにか?
  そうやってつぎに語らいが求められても
  ゆずりわたすわけには決していかない
  ほんのすこしのあいだをあける
  なにかが話しはじめようとしたとき
  マネキンがひとのように倒れた
  ふたりしてみていたら
  店員の女が遅まきにあらわれ
  ひとでないかのようにかの女を起してはいなくなった  
   もうじき閉店だ

文学極道

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