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作品 - 20120430_536_6062p

  • [佳]  落日 - 紅月  (2012-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


落日

  紅月

鋭いふじつぼが覆う
防波堤に腰掛けては
水に平行に浮かぶ灯台と
水を垂直に貫く灯台の
交差点を横切ってゆく
ちいさな鴎の残響を聴いていた
坦々とつづく白砂のうえに
残しておいたはずの足形も
ひとつのこらず剥ぎおとされて
(硬い珊瑚だけが堆積してゆく、)


うねる波は朱色
風に遊ばれる
薄いカーテンのようだ
ね? と、
錆色をした明喩を拾っては
飛沫の先へ投げる
(押し返されては
ひとりでに戻ってきて、)


翡翠の原を砕きながら
いっせいに
対岸へと駆けていった子どもたち
彼らのいうとおり
ささめきながらゆれる鏡面から
顔を覗かせる幾つもの
にぶい岩礁の影は
尖った指先のようにも見えた
まさぐっているのは
こちらではなくあちらなのか、
問答の乾かないうちに
誰もいなくなった
あがる飛沫はやがて発火して、


あわいまどろみばかりが
白砂に打ちあげられては
代わりに浚われてゆく影を
追う影もなく、
熱のない炎上をはじめた島が
しだいに焼け焦げてゆく空へ落下する


やがてさかしまとなって
そそぐ夜雨のつめたさを、
いったいどんな比喩で語ればいいのか
この島に人は住んでいないが
それでも詩は書けた
(潮騒に埋もれた鴎のこえ、
それがもし
うつくしいメタファであったとしても
わたしには永遠に理解できない)
 

文学極道

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