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作品 - 20120418_169_6032p

  • [佳]  水晶 - yuko  (2012-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


水晶

  yuko

さて、正面には
丸い机
中央の
銀皿にもられた
艶やかな葡萄と
止まったままの砂時計
どこからか
聞こえてくる通奏低音が
生きものたちの
瞼に影を落として、

りりり、と
電話がなって
振り返る
ここは人形の家で
(影のない、)
電話線の向こう側から
話しかけてくる誰か?(知らない)
誰もいない
食卓で音をたてる金属
うす暗い、
玄関から
蛇が入ってくる、
(床が落ちる、)


「父親と母親は双子で、
「地球儀を模る番い
「虹色の鱗粉を撒き散らす毒蛾
「産卵する、
「定点観測隊
「なにひとつ微分なんてしない、


歌う
唇を連れ去ったのは
ある
ひとりの幽霊
赤い
夕暮れを啜って
死んだ青魚、
テーブルクロスを引き抜いて、
君は
世界の
球形をけして
許さないといって
、消えた

屹立する電波塔
都市の抜け殻を
支える
平面
(ほどけて、)
しゅるしゅると
伸びていく尾を
呑み込む!


「生まれたときの記憶がない、
「転移した眼は見えない
「吃音
「色相環を指して、
「水面に飛び込んでいく
「離陸した心臓


窓際に
垂直に射しこむ影
泡立つ檸檬の午睡
視界の外れ
円卓が
ふくらんで
くらく、
同調していく旋律
(揺らいだ、)
休符
を求めては
絡まり合う足、
(電波!)

手を伸ばし
皮ごと
口に放り込んだ葡萄が
ぷちん
とはじけて、
食卓に並んだ
人形たちはみな
ぽかんと口を開けている
(逃げ出した、
(色とりどりの、
(たましい。
ひかりを追いかけて
伸びる蔦が
(帰って、
いつしか脊髄まで覆っていく
(おいで!

目の端を通りすぎる
彗星を追いかけて
気が
付けば葡萄畑の真ん中で
(燃えてる?
その
ひと粒ひと粒が
浮遊する
(ゆうれい、)
君のなみだで、
見えない、
なにもかもが
見えない
眼球に舌を這わせ
(しょっぱい、)
広がり続ける
きみの暗闇を舐めとって、
(だれ?)
(ぼくは、)
球体のなかに閉じ込められた。
(ゆうれい、)
なにもない!
朝、
(ぼくたちは、)
世界を
つつむやわらかな

どこにもたどりつかない光
(さよなら、)

文学極道

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