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作品 - 20120404_769_5989p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


孵化、火学

  New order

神の暗闇が部屋に満ちて、
異国の言葉は、

「もし、孤独が一つの連続体の、
 総称として、私たちを、
 海へ、ラプラスの海へ、
 投げ込むとするなら」
「ええ、貴方は、そこで、火学、を、
 言うのね。あの古い忘れ去られた
 魔術と呼ばれるようなものを」
「失われた空間は、恐怖で満たされているのよ」
「そこに、火を、千切れた魂を燃やすようにして」
「そうね。そして、私は嘘をつくのよ」
「特異点として、私は偽りの、心を」
「今日、心から願う、か、あの彼、そして詩人であった、
 彼が、詠ったように、」
「私は限りなく演算された一つの値ではないわ。」
「むしろ、固有値を持った無限」
「それはおかしいわ」
「いいえ決しておかしくない」
「私の不安は無限であると同時に、私の孤独は有限性の中で
 値を振り切って、「止まっている」のだから」
「私は教科書ではないのよ。ましてや、方程式に満たされた
 世界の終わりの向こう側で、肌を晒しているの」
「傷口は、論理を破綻させる。」
「そうね、知性は初めから傷つけられているのよ。」
「火の値を探して、貴方は、その傷を観測したわけだ」
「瞳は孵化する、こんな詩的である表現が「科学的」であるわけがない」
「貴方は、ラジウムの洗礼を、あの放射性物質の持つ洗礼を受けなければならない」
「それは、失われた神の恩寵とでもいうのか?」
「いいえ違うわ。神は失われた恩寵そのものであるのよ」
「じゃ、定義しよう。そこで言われる神とは?」
「火と魂の物語が終焉へ近づくに連れて、無限に閉じられていく有様」
「あまりにも詩的すぎるね」
「そうね。私は今、貴方を煙に巻こうとしているの。」
「煙に巻いたところで、その煙は一体何がくべられた火から?」
「ミモザよ。ミモザの語源は、パントマイムの語源であるミモスからきてるのよ」
「なるほど。では、貴方のそれは、行為は一体何なんだろう」
「火学、負荷が始めにこの魂には持たされているの。いや、魂が負荷そのもの、
 私たちは、この魂の重力から逃れられない」
「孤独と恐怖にまつわる火の物語を、火学というのか?」
「それも違う。火に物語が、魂の負荷と同じように、初めから、
 孤独と恐怖を内在しているの。だから燃えているのよ。
 さぁやさしい数学の時間よ。方程式は永遠に閉じられて、私達の間では
 何の意味ももたない。どうする?」
「個つまりatomismを越えようと?」
「違うわね。原子論ではなくて、原始論なのよこれは」
「くだらない冗談にようにきこえるけど。」
「起源は常に覆い隠されている。私たちの歴史は、歴史それ自体その起源を
記憶していないのよ。だから、終局から、本当の終わりから、燃え始めていて、
遠い未来から私たちに向かってすでに火が私たちを追いかけているのよ。」
「遠い未来から「追いかけてくる?」。よくわからないな。」
「だから、私たちはここで、孵化しなければならない。私たちと火が衝突する前に、
 羽でも生やして、飛び立たなければならないのよ。」
「どうやって?」
「私の、そして貴方の、失われている起源、を、捨てて、私の起源は貴方、そして貴方の起源は私、
 私たちの起源は私達、と言う風に、魂を分け与えるのよ。その時、火に焼かれるように、お互いの
 魂が痛みを感じるだろうけど、そしてより深い孤独や恐怖に陥るだろうけど、それが、起源として
 刻み込まれるはずよ」
「つまり、それは 始めに言葉が、あったように、すでに、その言葉には火が内在されていたと」
「そうで、私たちは、言葉を吐くたびに、この唇を、この口内を焼け焦がしながら、そして、向かいあった
 相手すらも焼き尽くすようにあるのよ」
「まるで、それでは殺し合いじゃないか」
「そうよ。それは、すでに絶対的に決められている逃れることの出来ない「事」としてあるのよ」
「外は雨だね」
「雨の中で、私たちは火を噴く、まるで怪獣よ」
「小さな怪獣としてこの世界を火で包むと」
「それは私たちの魂が凍えてしまわないように、痛みは私たちを傷つけて破滅させるけど、燃え上がらすわ」
「じゃ、君と私は今から殺しあうわけだ」
「そもそも、私と君はこの会話では、同一性を保っていない。私そして貴方、いえ君、は誰と話しているのかしら」
「火とその物語の孵化のために」

文学極道

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