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作品 - 20111223_651_5779p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ロスタイム

  DNA


1.

己れ、にだけ
忠実であろうとした女の
左腕は今朝 彼等の海へと
絡みついたままもげ 
その、断面からは黒く冷たい
叫びごえが鳴って
ロスタイムの合図とする

2.

おまえの絶望の浅瀬で
いまにもおれは溺死しそうだ
確かなものはすべて 白く
まるいパン皿のうえに横たわっている
脱ぎ散らかした膚を
気にかけながら性交に
狂って(いる場合ではなく) 
おれはざわつく歓喜をことごとく
踏みつけにした

3.

大衆商品やからさ、うちら
その感情の等価物など
この世に存在しない 
歴史は苦手やった 日本史とか
うちを勉強させるために
平城京は遷都し、長宗我部は統一した
歴史の事実とかいうの、あれ
うち全部架空のことやと思っとる
うちを勉強させるための
それでも音楽は実在した
ちっちゃいころから、うちピアノ
弾いとったから、わかんねん
バイエルも鍵盤もバッハもメトロノームも
ちゃんと、実在しとった
(うち、わかんねん)

4.

おれたちの叩いた
鍵盤はまもなく
白も黒も発火し
奴等の海では
調律がたいへん清らかで
優しい、(おまえの)絶望の
浅瀬では 白い
パン皿に亀裂が入って 膚が
いっせいに零れ 性交のまほろば
ついぞ合一など不可能であって
剥き出しの骨と骨とが
かちかちと鳴っている、それを(二度目の)
ロスタイムの合図とする

文学極道

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