北国の街を覆った雪がすっかり溶けて、風が穏やかな匂いを運んできた。なにか子供の頃に、かいだような気がする。そうだ、あの日の、桜が開き始めていた頃の都会でも。ショパンの『革命』が流れる古い喫茶店で、床にスーパーのポリ袋を置いた。パリパリと音をたてる白い袋から、黄緑色のふきのとうを取り出す。柔らかい葉には和紙を連想させる葉脈がはしる。河の土手で摘んできたそれを見詰めていると、やがて幼い友の面影が浮かんだ。沢蟹を捕っていた。街中の小さな森に流れる沢。水草の群生した水辺には、両手で抱えられないくらい大きな岩がごろごろしていて、子供たちはゆっくりとそれを転がし、濁りが消えるのを待つ。澄んだ水の底に蟹はいた。あれは確か、良く晴れた早春で、枯れた草木の内に新芽の息吹があった。蟹はどうなったのだろうか。家の玄関前、水を張った金タライの中でカサコソと動いていた。ひとりで土手を歩いていると、不意に刺激を感じたくなる時がある。多分、存在がうつろになるからだ。ふきのとうを摘んで草の匂いを感じた。まだ新鮮な生の匂いがする。春の優しさが育んだ命を指先でつまむ。つまみ上げた時、宙でツメの生えた脚をバタつさせていた蟹。赤黒い背はつるりとしていて、水気のぬめりを残す。
あの蟹も、ぼくが殺したのだろうか。
友だちを、密葬する。手で隠して刺殺する。
口に歯が生えるまでに、
なだめすかし、牛にするように、よわいものらが、
路地の湿り気に寄り添う。こころが通じている、そこにある。
しろいはらに脂肪がある。
しろいなえた足がある。
しろいほうけた脳がある。
顔のガーゼをはずせ、息をとめてささやけ。
可笑しいかい。
きみたちは、なにも分かっちゃいないよ。
そうしなきゃ、生きていくのはむずかしいことなんだ。
ぼくはふるえながら、
きみたちの内に痕を残す。
友と遊ぶ、
笑う、
こころの悩みをはなす、生きている他人。
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作品 - 20111212_357_5756p
- [佳] 友情 - 笹川 (2011-12)
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友情
笹川