昼/武蔵野から西へ歩いた。腐るにまかせたキャベツ畑に隣接した線路を、塗装が所々はげた黄色い電車が行き、コンクリートの柵に錆びた有刺鉄線が渡っていた。道は、ゆるく左に曲がっている。すりきれ/つまり、部屋は汚れが目立ち、縮みはじめ、外へ逃げると、冬の陽に抜き出されたかげが、路上で幾度も車輪に轢かれて。白い息を吐いている。「ひとがごみのようだ」と子供たちが口々に叫びあい、笑顔で駆けていった。
「おまえたちのことを愛している」とだけ、兄弟たちへメールが送られ、きっと酔っているのだと笑った翌日/父の癌を報された。心配からか義務感からか、それから毎日、実家に電話をかける。話はとうに尽きている。母はよく、前日にしたのと全く同じ話をする。胃のない父とは、まだ話していない。同時期に、友人の子供がいよいよ一歳になったという。おめでとう/長いつきあいだが、友人が結婚して疎遠になっていった。
居酒屋にひとりで、もう二時間はいた。熱すぎる熱燗、広すぎるテーブル、それはいつものことで、店員の上目づかいの意味をいちいち斟酌したりしない。隣席の、社交ダンス愛好会の婦人たちのひとりが「ちがうのよ、日本人は。ホモの外国人が一番なの」と、声高に自説を展開している。うふふ、煮えたお鍋にお箸を突っこんで、美味しい鮭をいただきますの。もともと貧弱な香りが飛んだ熱燗がまずい。お野菜も忘れずにね。
くそっ、トイレの床が水浸しで、足あとをつけて席へ戻る。手際よく片付けられたテーブルに、手をつけないままのお通し、酸っぱいキャベツのマヨネーズあえが乾いていた。隣席では今、若い男女が手に手をとりあい、女の美点がひとつ発掘されるたびに乾杯し、酔いを深めている。会計を求めにきた店員に閉店の時間を尋ね、まだ三十分の猶予が与えられていると知る。さあ、乾杯しよう。すでに昨日へと追いやられた今日に!
まじめな話
家に帰ったら
猿ではないことの
証明として
全身の毛を剃ろうと思う
君はどうする?
料理する?
ただの冗談だけど
最新情報
選出作品
作品 - 20111212_353_5754p
- [優] 2009.11.22. - 泉ムジ (2011-12)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
2009.11.22.
泉ムジ