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作品 - 20111203_113_5736p

  • [佳]  蛇行 - 泉ムジ  (2011-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


蛇行

  泉ムジ

まるっきり言葉にならない、aaとかmmとか、感嘆と、ながいながい失語で、切れ目もなく、
私たちの街を縦に引き裂き続けるおお蛇の、いま見せているのは、腹か尾か、心臓はすで
に通り過ぎたのか、隠蔽するつち埃が、人のすき間に充填され、せまい大通りは、ずっと
先まで期待ではち切れそうだ、aaと、開いたままの口で、私は行進に加わり、aaと、開い
たままの口で、私たちは呑んでゆく、酒屋の看板やら花屋の鉢植えやら、咀嚼もせずに、
mmと、まる呑みする、将棋盤と老人と椅子と子供と忠犬を首輪ごとまる呑みして、mmと、
膨らんだ腹は、せまい大通りをはみ出して、私たちの街をぶっ壊してゆく、そうだ、最高
だ、ぶっ壊せ、前方からうねりが起こる、やれ、やれ、やれ、後方から呼応が伝わる、私
の周辺ではこうだ、おれたちのまち、おれたちのもの、もうつち埃で何も見えやしない、
前か後ろか、動かした足が蹴っ飛ばされて、肩に拳固をくらって、歩いていない、おお蛇
のくねるうごめきだ、私は、私たちは、口を揃え、ながいながい失語で、度をこえた近視
で、互いの首を締め上げていることにさえ、気付かなかったし、たとえ、解ったとしても、
止められない、aaとかmmとか、真っ赤な顔が、みるみる膨らむ、私たちの期待が、空中で
破裂破裂破裂、口々に、とうとい、とうとい、尊い私たち、のいけにえ、aa、aa、つち埃
のせいで、私たちのほとんどはまだ知らない、だがそもそも、何を知っているのか、私は、
おい、おれだ、おれがおお蛇の心臓だ、やみくもに腕を振り回すと、周辺は低くなり、私
に警戒の眼差しを投げ、おれだ、おれこそが首謀者で預言者で教祖で伝令で革命そのもの、
おれたちの神だ、だるい腕が棒で、打たれまいと、周辺はいっそう低く、はるか先からも
注視する眼差しは、怯え、私たちは怯えて、だが、私は語る、剥き出しの心臓で、まるっ
きり言葉にならないままで、語ろうとする私に、剥き出しの銃口が対峙し、私たちは告げ
る、偽りの心臓だと、おお蛇の冷淡な肌、ふた股の舌で、彼らは言う、お前など知らない、
aa、aa、おれたちは、口をふさがれる、彼らの手が、次々とのび、拒絶する、私たちから、
私を、偽りの心臓、確かに、だが、いつからか、はじめからか、心臓は無いのだ、そうだ、
ぶっ壊せ、そいつの心臓を抜け、前方からうねりが起こる、やれ、やれ、やれ、後方から
呼応が伝わる、私の周辺は言葉も忘れ、熱中する、彼らの殺意が、鋭くえぐり、掲げられ
た心臓に、彼らは、aaとかmmとか、感嘆の中、言葉の無い、うたが聞こえる、知っている
女の、私の、母の、妻の、妹の、声色に似て、もう動かない体を起こすと、彼らが騒ぐ、
黙れ、黙ってくれ、お前らなんか知らない、どこにいる、もっとよく、私に聴かせてくれ

文学極道

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