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作品 - 20111124_908_5719p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


自己満足

  中田満帆




太った聖者 2007

 たんさんの夜を踏み
 救い上げるべきなにを探してゐた
 黒い点のあつまりとかさなりをよけ
 旧国道のしずまりをゆく

 なにかに奪われたくて
 なにかを奪いたくて
 やはらかいカーヴに乗り
 手のひらが足もとへ落ちる
 たやすく慰みが欲しくて
 小さな秋めがけて

  求めるものはあてつも
  信じるものはなく
  閉じた門口に立つては
  だれもいない庭にベールの女を見ようとした  
  こころのうちでひどく犯しながら

 救い上げるべきを見つけられない
 駅の裏道をたぐり寄せて
 ひとりだれかを欲したが
 降りてきたのはとても太つた聖者で
 薄暗い笑みのなか手のひらをさしだした
 なにももつてゐないから
 かれの過ぎるのをぢつと待つてゐた

  これだけを願う
  木のようなひと
  あるいは人のような木が見たいと


広告
  (平成22年11月2日「産経新聞」夕刊、第三文明および文芸社の広告より)


 つまらない室の
 まつたくつまらない夜
 ふたつの新聞広告を見ていて
 それもくだらない
 ことなのに眠れないあたま
 が長い時間を与えられたために
 考えさせられる
 たとえばこれ──


     人類にとって「善」とはなにか──鈴木光司


 少なくともそれは
 かれの小説ではないし
 おれのへたくそな詩でもないし
 第三文明でも
 非営利のあつまりでもない
 ましてやひとびとのふところから
 金銭を差しださせ
 考えることを忘れさせてしまう新興宗教
 では決してない
 信じるものをなにももたず
 うたぐることで生きすすめてきた
 おれにはまずもって
 じんるいも
 ぜんも
 えそらごと
 にすぎない
 つぎにこれ──


   成熟社会を生きる知恵と技術を学ぶ──藤原和博


 成熟そのものが遠く
 まぼろしのなかにあるというのに
 おそらくその知恵は地図にないところの
 森林でいまその果をひらいていることだろう
 そしてその技術は見なれない路上を夜風
 によって運ばれるゆきだおれのかばね
 があみだしているさなかだろう
 いつたいそんなものをかれは
 いつどこで学ぼうというのか
 おれには見当もつかない──


   報道の自由とメディアの倫理──なぜ今問われる?


 どこの覘き魔も
 どんな変態も
 あらゆる偏執狂も
 テレビとインターネットの見過ぎ
 でばかになってしまったしまりのないひとびとも
 金銭を舌で味わう政治屋さんや
 ふしぎな法人の餌にされ
 際限なく喰いもの
 にされていれば
 報道もその自由も
 とうの昔しにかれらの手のうち
 ささいな事故と事件を主食に決定され
 だれもかもが知らないうちに視覚や声帯を奪われる
 倫理というなまえの男たちは
 その食の量や質を整
 えるときだけ室からでてひとびと
 のうちへ侵入するのだ
 かれらがもっとも嫌うのは
 いくら魂しいを穢されても
 かおを醜く改変されても
 生きようとする非情なる幻視者だ
 窓の額縁をむこうにして
 まず犬がはじけ
 つぎに猫が切り裂かれ
 鳥たちが羽をもぎとられるとき
 幻視者たちはすばやく莨火を合図
 にしてだれもいなくなつた怒りの町へ
 警告の光りを熾す
 おれは深夜、
 その距離を確かめて
 はノートのうえに記録 
 しつづけてやめない
 つよい吐き気や
 揺れるような寒さ
 のなかで同行するものが
 だれひとりいなくとも
 決してやめない
 さてつづくは──


   期待に応える仕事を──エド・はるみ

 
 もはや喪われてしまった年月や
 欲しくてたまらなかった世界の
 そのちんぷさに気づかない
 かの女は即席の美談や消費期限の短すぎる自身
 によつて檻にされている哀しみの古壁だ
 無芸と芸をとりちがえ
 手遅れのひとびとのあまたが
 かの女のほかに何万人と控えている
 そんなひとを視界に確かめるとおれ
 はその視線をかならず絶つてしまう
 心あるだれかがいつかれらへバラッド
 を奏でるのか──おれは
 期待しすぎて朝を生きられない
 時間が速度をあげてゆく──


   ヨーロッパ統合の精神的源流──池田大作、S・ナポレオン


 あの大陸にいる白いひとびとが
 時間と金と益をかけて手を組んだだけなのに
 なぜだれもがさもすばらしいと拍手するのか
 おそらくこのふたりの山師たちがその
 解答欄を世界から隠しつづけているにちがいない
 ひとびとは同じような病衣を着せられて
 この生を均しい落差をもつて
 存在させられている
 だれかはだれかを殺させ
 だれかはだれかに眩むような
 灯りをあてているが
 あらゆるひとが本当に脱ぐべきは
 犯意でも悪意でも尿意でも
 ねたむでもうたぐりでもにくしみでもなく
 かれらのような連中が無料配布している
 あたらしく光沢のある病衣だ
 夜の幻視者たちはこの衣を検査
 して力づよい口笛をながく吹くだろう
 しかし山師たちも衣の改訂に砂粒ひとつの
 余念だつてなく蓄えた脂肪を抱いて
 すべてのものを統合しようと
 楽しそうに企んでいるところだ
 疲れたおれの窪みへ
 温く水分が伝ってくる
 だれかの涕が送信されてきたのか
 もうじき終わりが始まる──


   あなたも世界大統領──伊藤浩明
   「ヒトラーが悪なら戦争を止めろ!
   人類はそんなこともできないのか?」
   世界平和の鍵は卍にある


 たったひとりによって成立
 する歴史などはない
 だれもが抱いていた理想
 を協力しあいながらつくり
 あげたひとびとがいただけだ
 これは売りものにされてしまった物語
 のほんの、裏返しとほころび
 無知なおれにいわせるとあれは
 白を名乗るひとびうとのうちわもめ
 せかいはくず入れのようで
 だいとうりょうは病原体の一種
 へいわは呑んだくれのとても臭う息で
 まんぢはあなたの安物の首飾り
 とてもお似合いです──


   どんなことからも大好転──池田志柳
   今すぐ人生を好転させる秘訣とは?
   苦難から脱出できた事例も多数紹介

 
 だれも歩こうとしない路次
 をおれは通ってきたというのに
 遠い視界を過ぎていく群れ
 はどれもおなじく陽に晒された表通り
 をひとつの固体みせて過ぎてゆくばかりだ
 そこからあぶれまいと互いにさまたげあい
 ながらあくまで情が通っているように
 信じこまされているひとたち
 それを完全への近道
 と信じてうたぐりもしない
 ほんとうに好転を跳ぶもの
 は蠅群のなかのかばねのように
 入るところも出るところも
 わからない経路のうちにいる
 おれはもうそこを捨てて
 光りを喪わせることは
 したくない──


   妖精を探しに──さち よつは
   愛の悲劇的側面を象徴する魂の深淵からの、
   絶叫が聞こえる、第一詩集


 もはやなにをいっている
 のかもおれにはわからない
 ようせいもひげきもたましいの深淵
 もとうに消えてしまったものだ
 そこに遺されたのは骨組みですら
 ないのにこのひとは砂糖と着色料
 をぶちまけてきれいごとに酔うのか
 おそらくその酔いを強めようと
 著しているのだろう
 かの女の言の葉
 には見てくれのいい幽霊
 たちが漂っているのだろう
 おれだってそのたぐいなのだが──

 
   本と出合う幸福なひとときは文芸社から──


 たしかに出会いは幸福
 かも知れないがおれはどちらかといえば不幸
 を撰びだしたいのが本音だ
 本のなかに地獄や孤立があれば
 そこに浸って身を焦がしつつ眼 
 を研いでいたい
 書店や図書館の昏さにかおをうずめ
 血や脂の温さを紙のうえに滴らせること
 それにしても今夜も眠れないようだ
 朝をまぢかにひかえて夜
 は息づいてやまない──だから 
 光りつづけよ
 灯火よ
 月よ
 インキよ
 おれの戸口に立ったままの男よ、おやすみはいわない。


ぼくは小説家になろうかと思った 2010

 夜遅く
 窓づたいにネオンがやってくる
 とてもいやらしい色をして
 ぼくの蒲団をめくる
 女がいないやつは
 人間でないものに
 女を見出すしかない
 七色に羽ばたく鳥のつばさに
 魂しいを預けた

 翌朝
 だれもいない裏通り
 だれかのげろを鳥が啄ばんでいて
 裏町の物語、
 その仕組みについて
 鳥語で明かしていた
 ぼくはかげという通訳をつかい
 おぼろげながら意味をとる
 虚無の殺されたあたりを
 ゆっくりと歩き
 ぼくは小説家になろうかと思った
 灯りがついていたって人間の室とはかぎらない


即興詩 2011.11

  ふるい灰のような、
          埃りのようなものが光りのあいまに浮かぶ
  それらをからだにこりつけながら横たわり
  そうして立ちながらもいくばくかの聖さと
  なにがしかの技量を得て
  それらとともに終わりを待ったあと
  だれかといっしょに救貧院を放たれて手配師に連れられた
  どこか中部でみな食事代をもらうとばらばらになってとんこ
  だれもいないところを遁れ
  建物のまえを通りかかる
   そんなところでかつて
   配達夫だったことがあった
   あまり早くはない朝どき 
   老局員が機械から零れたものを手でよりわけ
   それを横目しながら発車口へでる
   たやすい区画を任されていたというのに遅くまでくばり終えなかった
   かくれてだれかの吸い殻を手にするあいまにロッカーに水が注がれれば
   就業になった
   どっかで桃の匂いがしてる

 通りで眠っているちにもちものを失う
 残ったやつでペンと履歴書を手にするも
 どのようなものにも受け入れられない 
 すべてに縁のないことをいまさらながら覚って
 ただなにもかもに遠ざかる
 すっかりあてもなくなっては家へ帰える
 職も探さずにねむりにつき 
 夜ふけては父とやりあい
 いつも負かされた

 しばらくしたら、
        ふたたび文なしのままでていく
  手に入れれるのはかげだ
  男のようなものや女のようなものや子供のようなものがどこへでも歩む
  それらはかげを通って
  かげのうちで失せ
  だれかがしゃべるのが聞える
   おれだってだれかに好かれたい 
   生きてるうち?
   死んだあと?
   ふたたびノートのまえに戻るまで
   それらを憶えておこうか
   おたわごとでもいいからな

      まだかげが火照ってる

文学極道

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