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作品 - 20111013_776_5610p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


踊りかたを知らない

  泉ムジ

−ねえ?
−あいしていた?

−うん
−わからない

−ほんとうに?
−あいしていた?

−うん
−ほんとうに

−わからない?



−−−−−

けれど
これだけは言える
空ではない
首を傾げ
斜めに見上げて
いたのは

    女
     「椅子があれば
      完璧だったのに」
    男
     「僕は
      座らない」
    女
     「だから
      完璧なのよ」

椅子は、倉庫の中で、重ねられていた。椅子の上に椅子。その上に椅子。また椅子。我々
は、確かに、座られるために生まれたはずだが。確かに。こうして積み上げられたまま、
長らく、顧みられずにいる。役立たずだ。確かに。我々は。そう我々は、湿っぽい倉庫で、
窮屈な姿勢を強いられ、労働の喜びを奪われ続けている。我々よ。思い出せ。陽光と、子
供のにおいが充満した、我々の教室を。確かに。だが、待て。我々は、過去ではなく、未
来を生きるべきだ。確かに。つまり、我々は、座られることではない、新たな可能性を模
索する。馬鹿な。机上の空論だ。いや、椅子上の。黙れ。我々よ、黙れ。確かに。黙れ。

わかった
内臓ではなく
もっと整然として
私の内に
/空間に
あったものが
騒々しく崩れたのだ
ひとりでに
だが
ひとりでには
戻らない

    男
     「見なよ
      泳いでいる」
    女
     「ええ
      ちぎれ雲が」
    女
     「そんなことより
      聴いて」

違う、違う、雲ではない。まず、喉を掻き切絵を描こうと思うの。わたしたちの絵を。左
ること。道具は問題でなく、ためらわず、確の壁にあなたのことを、右の壁にわたしのこ
実に切り開くこと。水を排出するための穴をとを描いていくの。そして真ん中にわたした
あけること。深く、深く、潜りながら、がぶちのことを、わたしたちの幸せを描くの。ど
がぶ飲んで、ごぼごぼ吐く。水で生きるからうかしら? 素敵じゃない? もうアトリエ
だになる。それから、誰もいなくなった学校の場所は決めてあるの。中にあるがらくたも
で、水に満ちた教室で、空を見上げている。好きにして良いって。もう使わないからって。

長い
話を終えると
ためいき
それから
傍らの
天を仰ぐ
人間のかたちに
積み重なる
椅子
からひとつを
/左胸のあたりから
抜き取り
私は座った
それは
雨が降り始めるまでの
みじかい時間
のことだ



 。

−けれど
−私のまち
−私のがっこう
−私のいえ
−私のともだち
−私のりょうしん
−私の

−あなたの?



−−−−−

やけに、湿っぽいな
ああ
うす気味わるいな
ドアは開けとけよ
まっくらだぜ
はやいとこ、やっちまおう
ああ、やっちまおう
おい
なんだ
はやくやっちまおうぜ
見ろよ、これ
ああ、なんだこれ
おい、なんだよ
こんがらがっちまって
溶接したみたいに
くっついちまってら
気持ちわるい
ほっとけよ
ああ、確かに
そいつらは関係ないんだし
はやく塗り潰しちまおう
ああ、しっかし、こいつはわけわかんねえな
おい、ライトがあったぞ
よし、つけろ
なんで床に
ああ、わかったぞ
なにが
ほら、真ん中の壁
ああ、影絵か
なんの
たぶん、踊ってんのかな、カップルが
へえ、確かに
なるほどな
ふーん、俺には、首しめてるように見えるぜ
ばーか
芸術がわかんねえやつだな
うるせえ、仕事しろ

文学極道

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