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作品 - 20111010_729_5602p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


(無題)

  DNA



リリィさん、今日もぼくたちの波止場で一羽の記号が息をひきとったね。
幾何学の身振りで生きながらえてきたきみのからだに 年老いた砂がまとわりつき
道行き、それは疾うにぼくたちの岸辺では役目を果たし終え
綴じられた〈 〉のほうから穏やかな〈 〉がまた漏れだしていく。
(これもまた生/活なのだ)
ミジンコの眼球にぼくたちの一切の希望が映るはずもなく
リリィさん、死んだ記号の亡骸にそっとあの石を供えてやってくれ。



」空転する さかさまの硝子ペンで
縁どられた空には きみのねりあげた碧 がいまにも崩落しようとしている。
(危うさ、とは無関係に
交 差する二本の白線)
行き止ま/りはどちらですか?
記号の振り返ったさきで小さな性交が終わりを告げ
埋められたボールのほうで哀しみの羽化する音をきいた気がした。



中野の線路沿いの喫茶店で 向かい合っていたきみたちは 白いシャツのうえに 白さを溢した。
夏の午前の陽光でぼくには何も判別がつかず
路上ではもう一匹の白さが干からびていた。


(風は、ときに残酷な行いをし)


ちいさきものども、きみたちの悔い改めた翌日に記号は死/ぬだろう。
ならば、せめて密航せよとリリィさん、あなたは云うのか。



見よう見まねで始められた分散する思考たち
きみからの短い手紙には一本の記号が杙を突き立てられ

「散開せよ。」とただ叫んでいる獣の群れ。

あまりの静寂のなかぼくは雨のさかさまに降るのをみた。




(チャル、チャル)


触覚に零度の信頼を置くことなどできないのだから
森を迂回することなく記号は黒さを纏うのだろう。
中継ぎはいつだって背中のほうへと捩れた場所から始められ


(チャル、チャルー!)


ここから港までに少なくとも千の黒さと沈黙に出合うというのか。

リリィさん、あなたの一番新しい手紙のなかでは二対の
黒く塗られた〈 〉が泣き叫んでいるように見えます。



わたしたちの鎮魂の踊りには右手の長さがいつも余ってしまう。
水に浸ければ少しはうまく作動しはじめるのだろうか?
構築された〈 〉は右手の余った長さの分だけ見遣るのも苦しく、
きみたちの告白はすで/にそこ/に在っ/たものとして発せられています。


(((しゅっぱつの笛は一度、ぼくやリリィさんからは遠い場所で鳴らされていたのかもしれません。



舗道の脇のちいさな向日性。
(最初に光があったという。その光の大きさをぼくはずっと知りたかった!



死んだ記号を舌のうえで転がす身振り、(そして そこから遠く離れろ!
円錐の突端と地中のアンモナイトの眠りとを同じ秤にかけることもできたはずだった。
ぼくの瑕疵の数だけ無尽蔵に海がおおきくなっていく。


速さとは無関係な行いを雲雀たちの旋回のように 擁護することができることなら((できたなら・・・


リリィさん、オソラク ボクハ アナタヨリサキニ ユクンダト オモイ マス 



潜航する きみの、記号の生まれた所在地へと (そこ、には名宛人のない手紙が無造作に散乱していると聞いた。


声ですらないひとつの呻きに人差し指を絡める。
狂/いだしているのはこの秒針のたてる音なのかその鼓動の音なのか。
あたらしい息継ぎにはあたらしい形式が必要です。
おはこんばんちは
おはこんばんちは
きこえていますか
おはこんばんちは



時にはこの逆流する船上の風について リリィさん あなたに報告しなければならないでしょう。


いまだ
途切れない
風の
期待する
白い記号、の
(嵐は一昨日のことだった
残された
ひとびと、の
息継ぎよ
転べ!


傍らの森では暗い鳥たちが盛んに河口に関する取り引きを始め
水先の案内人は始めから死滅していた。



見破ること のむつかしい碧さに貧/困を埋め込んだ〈 〉を日々喰らい続け
消化されない、透明な手紙たちよ!
河口は東であり同時に西であったから微睡むこと、それもぼくたちには許されており
数本の釘が刺さった銅板を方位磁針の代わりにしつらえ
風、きみの弱々しい詩情を薄汚れたマストのうえに素描する。



///あっ つい、リリィ さん あなた はいま どこです か いくつ?
になった きぼう は あまりに みじかい めいはくな あやまちの きごうが ささやくのは 虚偽 です///



終りを示すひとつの鐘の音が鳴り止まず
もはや運航されることのない蒸気船から 夜にだけ獲得された積荷をおろし
集まったちいさきものども きみたちが街を濡らしだすなら
さいしょ の光の大きさを探る術もあったはずだ。
街路樹の白い冷たさだけをあてにして歩くことはできない。
正確に計測すること あるいは 欲望のただしさでうがたれた杙。
道標はすでに千々の欠片と成り果てていたから
見誤らずにいてくれ。


リリィさん あの、まっすぐにのびた国道からはいまも海が見えていますか。



たどりつくことのできそうにない岸辺。
波間には死んだボウフラたちが漂い 狂って
しまった信号は、


     (みどり
      あか、いいえ
      てんめつつつ
      は ははい
      あかあ かか


again(再会)ということばはわたしたちの間では無効であって 


暗い鈍さの向こう側に片足をほうりだし
掴みとれるものなら朝に



(凍てついた水面にはなにが遺されていたと云うのか。


リリィさん あなたからの最後の手紙にはただ「リヴィング・エンド」
と書かれた看板の白黒写真が写り込んでいたね。


短さのあまりの遠さにぼくは少し目眩を覚え 行く先
はずっと彼方だと思い込んでいたがそれはひとつのの誤認だった。


始めから死んでいたのかもしれない黒や白や碧の記号たちを
引き連れてぼくは このボールを今日、ミシシッピ河畔に埋めます。



夜ごと書き付けられていただろう手紙の半分は船上に残し 
もう半分を 暖をとるために燃したことを告/白する(だが、いっだいだれに?
埋められたボールの裂け目から ぼくたちの見遣ることのできなかった全ての末路が漏れだしているのなら・・・


リリィさん、あなたが好きだった唄をぼくは
ひとつでも奏でることができただろうか?


     あなた の
     切り/開いた
     岸辺、の
     深い虚森の底 には
     赤煉瓦の図書館と
     崩れかけた城跡が 
     あった/ね ようやく 白い
     霧雨の
     覆いはじ め響いて いる?


     (チャル
      は ははい
      あかあ かか 
      チャルー
      お おはこん ばんちちは
      きこえて いますか
      おは
      こんばんち
      は!



               2008年11月〜2009年5月に作成        

文学極道

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