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作品 - 20110917_807_5542p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「明眸」と名付けられた少女の肖像

  鈴屋


顔の裏側は灰色
誰でもそうなんでしょう?

去っていく人だけが信じられる
少しは賢くなった九月

菜園の向こうには
給水塔とメタセコイアの森
いつも同じ窓の風景を見ているのに
少しも飽きない
心静かな九月

時おり
誰とは知らない女の人が
庭で摘んだ花を活けていく
美しいお婆さんです

わたしを十五秒ほど見詰めてから
瞼を閉じて
そのまま、じっと眉根をよせている
お婆さん

瞼を開いて、眸が
ぱちんと明るく晴れて
窓の外の空をしばし望むのは
きまりごとのよう

花瓶の鶏頭花は
二日も経つと
黒い小粒の種がテーブルクロスに散らかり
それからまた二日
花首が曲がり
色あせる

月夜には
窓辺に子猫がやってきて
ケッ、ケッ
銀色の粘液にまみれた魚の骨を
吐いた
口を濡らし
半分膜がかかった眼でこちらを向くと
あるところで光った
わたしの友だち

麻地のワンピースに
エナメルのベルト
その下には
色とりどりの宝石のように
お腹の臓器があって
これは誰もご存じないこと

ちゃんと子宮もあります
青磁の色の

給水塔に
茜の雲がかかり
この日も暮れ

五十年、昔
「明眸」
ひと言、そう告げた男の人は去り
窓辺に
こちらを向いて立つことは
二度とありません

文学極道

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