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作品 - 20110704_301_5331p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


世界の終わりに

  Q

「なぁ、あの女の子は死んだのか?」
「あぁ、天国でおっちんじまったよ」
「天国でもばかすか死んでいきやがるな」
「地獄ではもっと死んでいるって話だぜ」
「お前の羽はあいかわらず黄色いしみったれてやがる」
「あたりまえじゃねーか、俺は元々日本人でよ」
「そうか、お前は日本人だったのか」
「とりあえず、このままいくとだな。俺らもそろそろ
 死期が近いんじゃないか」
「うんなわけでもねーだろう」
「地獄と天国で、ちゃぶ台かえしたみたいに
 いっせいに、ドンパチやろうぜって話になって
 いまだやりあってるが、おれらみたいに、
 元人間は戦争では使い物にならねーからと
 赤紙はこねーよ」
「早く戦争にいきてぇよな」
「この永遠という恵は、俺ら元人間からすりゃ
 不自由きわまりないからな」
「もういっかい、あれだけ俺を罵った嫁が、
 俺が死んだ時にわんわん泣きながら
 侘びをいれたのを味わいたいしな」
「もう無理だろうよ。せいぜい、俺達は、天国・地獄で死んだ奴らの
 数を数えて、統計的なデーターにして整理していくしかない」
「神様も、ついにはこの膨大な死者の死をその精神に受け入れられない
 ときたらしく、データーにしろっていうわけだ」
「グラフだと、「今月は少なかったね。良かったね」ですむもんな」
「しかしまぁ、これだけつみあがった死者の死者をどこにもってけっていうんだ」

―ひかる、ひかる、

「貴方の頭から光る、私の足からも、この暴かれた内蔵からも、ひかる、ひかる、世界はいつのまにか、この小さな光に、埋め尽くされて、老いていくだろうね」
「そして、老いた世界も―ひかる、ひかる」
「あの女の子光っているよ。」
「生きてたころはかわいかったらしいよ。ただ、事故で死んだものだから、死者になってからは、ずっと内臓が特に、胃がたれっぱなしで、それをよくぶらぶらさせながら、歩いてたもんだよ。あ、ほら、彼女の胃からも―ひかる、ひかる」
「糞を垂れ流して死んでいるあの男もあの男の糞もひかっているね。―ひかる、ひかる」
「すべてがひかっていくね。僕らの話している言葉ももう光っているよ。」
「それは僕らの言葉がもうすでに死んでいるからだよ。」
「ほら、あっちで歌っている女からもひかりが溢れている。」
「あの歌は悲しい歌だね」
「そうだね。また、僕の言葉が光った。」
「この光はいつ消えてなくなるだろうね。」
「もう消えることは無いよ。」
「ただ、光が残るだけだよ。この世界が滅んだら、世界が光る。そして、光だけが残って、世界が消えてなくなるだけ。」
「すべてがひかりに還元されたら」
「争いも言葉もすべてなくなるね」
「あの女の子も、あの男の人も」
「そしてこうやって会話している僕らも」
「ひかるだけ。」
「きみのからだも光り始めてるよ」
「きみのからだも同じように」
「光だけが残る。」
「一体それを誰が観測するんだろう。」
「もう誰も観測しない。」
「観測されないひかり」
「でも、ひかりだけがのこる」

―ひかる、ひかる

木々の間から漏れる光。ビルの間から漏れる光。それがいつのまにか空を覆いつくして、そして空ももう光になった。あらゆる天国も地獄も、空想も想像も夢も、何もかもが光なって、誰にも観測されないまま、そして空間も光になった。そして光も光になって。今朝、目が覚めて、瞼をこする時、少しだけ光が溢れた。

文学極道

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