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作品 - 20110507_712_5191p

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唇に夕日

  鈴屋


真昼
漆黒の青空 海と陸あり                          
日傘をかたむけ
唇が わらう

一度 世界を かき消し
窓は ガラスでつくる
ドアは 背後を切りぬき 地平線は ひっ掻く 
心は 草を編んだ籠のごときもの  
椅子とテーブルは 置かない

非常に悲しい 午後の 
唇は

管弦楽を聴き
白湯をすすり 温まり 
祈ってはならない 実務をなせ 
受話器をとり 箱を運び 伝票を集計し ファックスを送り  
タバコを吸い ルージュをひきなおし 
白紙に歳月を刻み 昨日今日 健全に生きている者は 死者を統計する
うしろ手にドアを閉め 
唇は 空を吸う

夕日
ニセアカシアが匂う河原で 
小石を拾い
まるみ ざらつき 重さを 指に覚え 捨てる
捨てた石は石にまぎれ 澄ましていて 
わからなくなる
夕日
死者は 汀によこたわり 
瞳の砂を 水が洗う 
紫色の空 黄金の船団 
眼差しは せめて ひとときを さかしまの海に遊ぶ
死ぬこととは腐敗すること

腐敗する 春 
唇に夕日
橋上にテールランプがならび
工場とオフィスが おびただしい人影を排出する 
駅前では バスがどこかへ去り 臓物が焼け 煙は夕日にほのぼの染まり 
とある 神秘的な静けさ 
まさか 明日を 信仰するとは まさか しないとは

五月こそ 
とくべつの青空
唇は
タバコを吸い付け
となりの粗野な堅い唇に そっと差し込む 
ルージュの甘い残り香 
新緑の山裾 消えのこる雪の山岳 
街道を内陸へひた走る 大型トラックの 
運転席でのこと

文学極道

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