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作品 - 20101028_951_4789p

  • [佳]  詩片1 - ヒダリテ  (2010-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩片1

  ヒダリテ

* 郵葬   

僕は生きたまま
棺桶の中
喪服姿の母が言う

「お手数ですが
 切手をお貼りください。」

たくさんの切手が
僕の顔に貼られる



* 儀式 その1

嫁入り前の娘が嫁入り前夜
シカゴカブスのヘルメットを目深にかぶり
鎖がまを体中に巻き付け、家々を回り
眠っている子供たちに
筆ペンを投げつける
という東北地方に古くから伝わる習わし



* 風景

冬の浜辺、曇天の空の下、
一組の若い男女が言い争っている。
と、突然、女は、傍らのテトラポッドをぎゅっと抱きしめ、
男に向かって叫ぶ。
「あたし、この人と一緒になるから!」



* 親切な昆虫図鑑

【キリギリス】
 バッタ目(直翅目)キリギリス科に分類される昆虫。
 広義にはキリギリス科の昆虫を総称して呼ぶこともある。
 リスではない。



* 儀式 その2

夕陽を浴びながら
下半身を露出した男が一人
ピラニア巣くう
アマゾン川の、その水面に
ゆっくりと
タマ袋を、浸す……



* デイ・トリッパー

君の去ってしまった
秋の夕暮れ
僕は ひとり
リビングで
君にもらった
苺のパンティー
頭にかぶって
ゆっくりと
タバコの煙を
くゆらしながら

デイ・トリッパー
ビートルズを聴いている



* 屋台にて

屋台の飲み屋に連れて行ってもらう。
屋台の親父が俺に言う。

「あんた息子に似てる。」
「俺が?」
「うん。」
「あんたの?」
「うん。あんた俺の息子に似てる。」
「息子って、あっちの意味の?」
「うん、あっちの意味の。あんた俺の息子に似てる。あっちの意味の。」
「俺が?」
「うん。俺の息子の亀頭の先端の割れ目あたりの、艶っぽい感じとか、色とか、雰囲気が、あんたの顔は何となく似ている。」
「光栄だよ、親父。熱燗をくれ。」
「はいよ。」



* 面倒くさいやりとり 「警官と主婦」編

「ご職業は?」
「主婦です。」
「ほう、主婦、ホントに?」
「はい。」
「あんた本当に主婦?」
「ええ。」
「はあ…。主婦ってのは、つまり、主に婦って事ですね。」
「いや、主に婦、っていうか、……まあ、そうです。」
「ん、つまり主に婦って事は、例外的に婦でないことをも意味してらっしゃる?」
「いや、そういうわけではなくて。」
「じゃあ、四六時中、寝ても覚めても、三百六十五日、年中無休で、例外なく、きわめて原理的に、婦、ってことですか?」
「……まあ、そうです。」
「じゃあ、婦って言いなさいよ。単に婦って。」
「え? 婦? どうして?」
「紛らわしいから。」
「そうですか?」
「そりゃ、ね、主婦、って言ったら、主に、婦です、って事でしょ。じゃあ、主に婦、であるあなたは、例外的には、何? なんて事を考えてしまって、紛らわしいでしょ。」
「はあ。」
「ペプシ飲む?」
「いえ、ペプシは。」
「おはぎ食べる?」
「いえ、おはぎも結構です。」
「あ、そう。」
「……あの、主人が待っているので。」
「主人?」
「はい、うちの旦那ですけど。」
「旦那が、主人?」
「はい。」
「主人ってのは、つまり主に人って事?」
「え、と。」
「おもにひとなの、あなたのだんな。」
「はい。っていうか、いつも人です。」
「ホントに? 例外的に犬であることなどなしに?」
「例外的に犬であることなどなしに。です。」
「いつもヒトなの。」
「はい。いつもヒトです。」
「じゃあ、人、って言いなさいよ。」
「いや、でも……。」
「ポッキー食べる?」
「……。」

文学極道

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