瞼をひらいて
おれんじの灯りを
つけたまま眠ってしまった
ことに
きづいた朝
さみしかったあたしの
ぬけがらが
風のないベッドのうえ
揺れていました
まどのそと
煤けたそらが
ふてくされたように
横たわっています
ひだまりの階段をおりると
ぴあのの鍵盤が
床いちめんに散らかっていて
それはきっと
かみさまのしわざに
ちがいありませんでした
きのうの夜
ゆめのなかでかみさまが
こどものかたちで
わらいながら
ドビュッシーの音みたいに
星をはじいていたのを
みましたから
洗面台に水をはり
顔をあらおうとしたら
ちいさなたびびとが
水のほとりに
おぼつかないあしどりで
やってきました
ちいさな水筒に
わずかな水を汲み
きょろきょろと周りを
みわたしたあと
すぐに消えてしまいました
波紋はきしべを
うったのを確かめてから
しずかになります
(なりました)
まちかどで
かーでぃがんを羽織って
ぬくもっていると
毛糸のすきまから
「またいつか」や
「どこまでもずっと」が
アルファベットみたいに柔らかく
しみこんできて
こわいくらい
からだになじんで
だから
あたしのあしたやきょうは
あてのない約束で
できているのだと
おもいます
くりかえして
くりかえして
生活のふりをして
プラットフォームにて
だれかの落としたてぶくろが
まだだれかの
てのかたちを
おぼえて待っています
おぼえていると
わからなくても
記憶を
あらわすことは
できます
いきていなくても
いきているより
はるかに
じょうずに
家の鍵をあけるときの
無防備なせなかを
たくさんのおばけたちが
のっくもせずに
とおりぬけていきます
かちゃんと
ドアノブをまわしたら
部屋にはやみがあって
あたしはきちんと
ひとりでした
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選出作品
作品 - 20101009_706_4752p
- [優] ふゆのうた - ひろかわ文緒 (2010-10)
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ふゆのうた
ひろかわ文緒