石炭を詰め込んだ袋を背負い、夕焼けの帰路を歩く。丘をなぞるように続く細い道には足跡が続く。その中に昨日の雨水が溜まり、夕日がぽつりと溶け出す。二つ目の峠を下りた頃、炭鉱から帰る途中らしき女性を見つける。彼女の脚は長い丈の衣に隠され、何かの爬虫類、ニワトリ、と一歩一歩違った足跡が続く。それを指差して、これはあなたの足跡ですか、と聞く。いいえ、これはあなたの足跡でしょう、と苦笑される。丘のてっぺんまで来たとき、彼女は纏っていた衣を脱ぎ捨て、足元を指差す。踝から下が透けており、あなたは幽霊なのですか、そう聞くと、彼女は何かを答えようとして口を開く。その中では白骨が燃やされており、驚いて誰の声も聞こえないまま、喉の奥の暗がりへと飲み込まれていく。
(女の腹の中で、黒光りする液体を泳ぎ切り、家に帰り着く)
ぽつり、ぽつりと星が照り出したのを見計らって、私は家を飛び出し、街灯を避けて走り出す。時々私の口に羽虫が飛び込み、そのまま飲み込んでしまう。羽虫は喉の奥で何かをまさぐって、その度にぞっとしながら、闇へ。羽虫が唇を掠めることもなくなった頃、墓地に辿り着く。星だけが点在する、ピンで留めたように。まだ、喉に何かが引っ掛かっていて、ガビリと引っ掻いて全身に響く。ガビリ、ガビリ、辺りの墓石からも聞こえ出し、重たい石の戸を開けて骨だけになった影が立ち上がり、私の周りで踊り狂う、ガビリ、ガビリ、骨を鳴らしながら騒ぎ立て、耐え切れなくなり、もうたくさんだ!そう叫んだ後、喉につかえていたものを吐き出した、
(吐瀉物の中からツチボタルが這い出し、頭蓋骨に入り込む、)
頭蓋骨を棒に掛けて洞窟を進む。眼窩からは糸状の燐光が次々と放たれ、触れた岩肌から放射状に広がって暗闇を照らしていく。ツチボタルの松明。私が呼吸する度に光が通い、壁に張り巡らされた網が震え。進んでも進んでも辿ってきた道が輝くばかりで、少しも前を照らさない灯。やがて私は空腹を感じ、それに同調するかのように、頭蓋骨はいっそう青白い血液を滾らせ、四方八方に送り出す。急に強くなった光が背中を押していく。
ここで洞窟は二つの道に分かれている。一方はしんと静まり返り、もう一方からは石油が臭い、そちらに行くと、オレンジの燭台が見え、徐々にその半透明の影が広がっていく。見つけた!ひとりの男が叫び、すぐに何人かが集まってきて、化石だ、と口々に言い合って、渦巻いた塊が男の手の中で黒光りする。引き返して、もう一方の道に向かっていくと、ツチボタルの松明が弱まり出す。進めば進むほどに弱くなり、遂に消えてしまう。手探りで進み、ようやく洞窟を抜け、墓地に着く。死者たちがたき火をぐるりと囲んでおり、ひとりから、これを食べないとお前は消えてしまうよ、と言われ、握り飯をもらう。戻ろうとして振り返ると洞窟は跡形もなく消えている。手足が徐々に透け始め、消える前に握り飯を飲み込む。そして、家に帰ることもできないまま、仕方なくその人たちとずっと一緒に暮らすことにした。
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選出作品
作品 - 20100405_921_4297p
- [佳] 死者の道(化石) - はかいし (2010-04)
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死者の道(化石)
はかいし