※各章、各節の番号は進行する順番を示す
同一番号の章は同時に進行する
同一番号の節は同時に進行する
○
1(1-5)
1.犬の視線の先を私と呼ぼう
例えば
稜線の向こうには青空が広がっているという
本能と区別のつかない予断のように
犬の視線のとどまる場所を私と言おう
2.稜線の裏側には青空が連続しているという
本能と区別のつかない予断
2.遮られ
滞り
偏って
時にはなでたり
3.舐めてみたりする
だから
4.犬は、私を見ている
4.だから、犬は私を見ている
4.かろうじて定位した輪郭線
5.それなら、四角く区切られた海は私だね
それなら、四角く区切られた海は私だね
○
2(1)
1.昔耳に触れた雷鳴より美しいものを見たくて
私は肘を洗っていた
聴いてはいけなかった
音響と区別がつかなくて、私は、肘を洗っていた
やがて落下する私の眼球が
たらいの向こうへ、四角く区切られた海へ
3(1-4)
1.私の眼球が
1.海を忘れた海として
2.四角く区切られた海を遡る
2.溺死したことを忘れた水死体として
3.やがて上昇する私の肘
4.海はたらいに掬われて、今、女の肘を洗う
3(5)
5.二人を死なすまいとする力が砂浜に鉄塔を建設した…
4(1-2)
1.交錯する先は砂浜の鉄塔
彼と彼女を死なせないために
2.昔、耳に触れた美しいものを見たくて
私は肘を洗う
やがて落下する私の眼球が
たらいの向こうへ、四角く区切られた海へ
5(1)
1.俺たちは
犬を捨てに
遠くを目指して
出発したときには
生きていたが
電車の中で
絞め殺した
5(2-10)
2.眼球はたらいの向こうに続いている
2.もう落ちそうだよ
3.四角く区切られた海からやがて女の肘が上昇して
4.すべてが見えるね
5.二人は犬の死体を引きずりながら歩いた
6.もう犬は何も見ない?
7.違うよ、肘だよ、肘が持ち上がるんだよ、
8.ビル街に落ちる所々遮蔽された日射しに
9.街から全ての視線を引き抜いて歩こう
10.俺たちの勝ちだ
10.焼かれながら歩いた
6(1)
1.拡散していたものがつかの間交錯する
砂浜の鉄塔で
おそらくいくつもの目にいくつもの目が映る
○
7(1)
1.雷鳴が轟いた
海は四角く区切られた
犬が埋葬された
砂浜は、誰の目からも隠れた
8(1)
1.昔耳に触れた雷鳴より美しいものを見たくて
私は肘を洗っていた
聴いてはいけなかった
音響と区別がつかなくて、私は、肘を洗っていた
8(2 繰り返し)
2.雷鳴が轟いた
海は四角く区切られた
9(1-4)
1.やがて落下する私の眼球が
1.海を忘れた海として
2.四角く区切られた海を遡る
2.溺死したことを忘れた水死体として
3 やがて上昇する私の肘
4 海はたらいに掬われて、今、女の肘を洗う
9(5 繰り返し)
5.犬が埋葬された
砂浜は、誰の目からも隠れた
10(1)
1.稲妻が落ちる
あらゆる海に亀裂が走る
海面から巨大な肘が上昇した
燃え盛る女の眼球が天から落下した
女は眼窩に惑星を収めた
全ては把握可能だった
10(2-4)
2.眼球はたらいの向こうに続いている
2.もう落ちそうだよ
3.四角く区切られた海からやがて女の肘が上昇して
4.すべてが見えるね
10(5 繰り返し)
5 稲妻が落ちた
11(1)
1.割れ続ける海の
あらゆる格子状の海面から
埋葬された犬が上陸を目指し立ち上がる
幾億の群れが天を見た
巨大な肘を噛み砕いた
惑星は血を流し
11(2-5)
2.二人は犬の死体を引きずりながら歩いた
2.もう犬は何も見ない?
3.ビル街に落ちる所々遮蔽された日射しに
4.街から全ての視線を引き抜いて歩こう
5.俺たちの勝ちだ
5.焼かれながら歩いた
11(6 繰り返し)
6.二人を死なせまいとする
12(1)
1.海は凪いだ
13(1)
1.昔耳に触れた雷鳴より美しいものを見たくて
私は肘を洗っていた
聴いてはいけなかった
音響と区別がつかなくて、私は、肘を洗っていた
13(2)
2.全ては浜辺の出来事だった
区切られてはいない、彼らが架空する限り広がる
無限の浜辺だった
13(3 繰り返し)
3.砂浜の鉄塔に
14(1)
1.崩壊したのは鉄塔で
海はただ静かだった
女は海に飛び込み、男は犬の骸を見た
○
15(1)
1.昔、耳に触れた雷鳴より美しいものをみたくて
私は、肘を洗っていた
やがて落下する私の眼球が
たらいの向こうへ、四角く区切られた海へ
選出作品
作品 - 20100326_744_4272p
- [優] 海の指紋 - 椎葉一晃 (2010-03)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
海の指紋
椎葉一晃