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作品 - 20100315_545_4253p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


笑う男

  鈴屋

バス停に人はいない
ベンチを借りてタバコを喫う

畑野の上
雲の群れが底辺をそろえ、刻々と移動している
男が一人やってくる
五十前後、黄色いカーディガンのなで肩、痩せた紡錘形
笑っている
煙を吸い灰をにはじく

男の上下の唇がしきりに揉みあい
笑っている
前歯が一本、下唇を噛んでいる
窪んだ眼がとつぜん空に向かって剥かれ
笑っている
たまに、グフッと声が洩れる
近づいてくる
ズボンの皮ベルトの余りを前に垂らしながら
近づいてくる
目が合うぞ、と覚悟する間も無く
極端な上目遣いが素通りしていく
二つの水気のない石の目玉が
笑いに似合っている
通りすぎて
黄色い背中が町のほうへ去っていく
煙を吸い灰をはじく
去っていく男が横を向くと
やはり笑っている
鉤鼻を空にもたげ
唇のはしと目尻がくっつかんばかりに
笑っている

指に熱を感じる
吸殻を携帯灰皿に捨て立ち上がる

時折、雲の群れの底辺が割れることがあり
丘の上に光の柱が立ったりする
私が笑ってみる
唇を揉みあわせる、目を剥く、グフッと言う
ずっとそうやって
笑いながら町の方へ歩いていく
これで
やっていけるのがわかる

文学極道

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