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作品 - 20100309_419_4241p

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不快とともに

  岩尾忍

この世ほど古いテーブルの周囲で、

食べては皿に吐き交換してまた食べ、あなたと私とXとの重量の、合計が一定の生活をしていた。秤が傾くと指先で戻して、しかも誰一人死なないので長い目で見るならばつまり、

目減りして全員が少しずつ痩せる。外からはわかりませんよ。むしろ新品の風船のように膨れて、いい色していました、みんな。時に私など手が滑ったふりして、ツン、

と隣に座っているあなたを、疑念の一端で突ついてみたかったのですが。しかしあなたが食べた後のものしか、私の所へは回ってこなかった。やわらかくなまぬるく

甘酸っぱく溶けかけたそれ、たとえばカレーライスを、私は私の滋養として育った。そういうのが「幸せ」でした。私の食べたカレーライスは、あなたの食べたカレーライスであり、あなたの食べたカレーライスであり、

あなたの食べたカレーライスであり、多くを学んだものです。ありがとう。あなたの記憶にも匙をつっこんで、あなたの知らないうちに、すくいとりなめるように知った。すくうと糸を引く。関係が生じる。ほら、生じた。そしてまたそうなってしまうと、

なかなか死にませんしね、意識までありますしね。どうにかするためには八月の油虫並みの、知恵も力も要る。そういうことでした。べとべとの、足の数だけある立脚点の上で。体を頭へと引きずって引きずって、

抜けた。ところであれは何月だったろうか。季節だけあったのに目に見えるすべては、常に一定で完全に矛盾していた。ガラスに描かれたガラスの外の風景。それで私も吐き気を催したのですが、知っていましたか。「自分の体ってのはさ、

痩せるほど重くなるんだ。」

残留が。そこは七階の五号室でしたが、今まで誰もあけなかった窓を、あなたの腫瘍の一部として私が、成長して少しだけ揺すった。風が吹き込んで、あなたは凍えたが狂喜しましたよ、私は。これで誰かが消えるかもしれない、

と。実際はどういうことだったかといえば、単なる離脱です。肥大した風船がふらふら、ふらふらと春も近いある日に、窓からその外へ

ゆっくりと落ちて行ったのだ。あなたとXを残して。眼とひとふさの薄蒼い神経を、それだけをいただいてぶらさげておりました。だからテーブルに置き残した紙片も、たぶんもう誰も読む者がいない。あなたにXに読ませたかったのに、読ませたかったのに眼は

あの部屋にたった一つで、それは私のこの眼であるのだから。だから私が明かすしかないですね。こういうことだったよと、

こういうことなのだよと。たとえばあの紙に記されていたのは、この二行だけです。

「不快とともに想起させてやる。
 生ごみになってやる。」

文学極道

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