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場末の酒場のサーカス小屋みたいなおんぼろのステージで
観客は興奮したら死んでしまいそうな爺さんばかり
肉体を憧憬するより背後に渦巻く古典的な愚かさ
身につけた装飾品を剥がしてゆく
たおやかな線が表れる
詩的な昆虫が脱皮するように
ストリップ劇場の外では男も女もその他大勢
何か脱ぎきらないまま抱き合ったり潰れたり
幕間のコントが爆竹の様にけたたましく走り去り
ストリップ嬢の絹の靴下に吸収される
女の匂いが火花のようにパチパチ衝天するような
角材で殴られて気絶した夜
拡声器の残響だけが
脳裏を支配する暗転
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幕が引かれスポットライトがあたると女は自分の生立ちで漫才をはじめた
秀才肌だが自慢話と悪口ばかりの年上の男にいつも低能だと罵られていたせいで
すっかりマゾヒスティックになってしまった夜のこと
子供の頃遊んだ公園の滑り台が蛸のフォルムをしていたせいで
曲線と吸盤の快楽を知ってしまった夜のこと
真夜中のキッチンで冷蔵庫を開けた途端紙パックの牛乳に寄り掛かられて
ミルクアレルギーになったこと
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覗き穴と世界中の好奇の目
白目をむいて過呼吸気味
まぶたが裏返ったような奇態な人類が
覗き穴の奥に住んでいると聞いたけど
朝になればお弁当を持った小人がゾロゾロ出勤してゆく
お手洗いに行きたくなって目が覚める
朝のひかりにゆうべのラメが鈍く反射して
ここがどこだかわからなくなる
いろいろな部屋のいろいろな窓
いろいろな家具のいろいろな色
いろいろな場所のいろいろな朝
果物や牛乳
不味いパンや美味しいパン
白砂糖がポロポロこぼれてちいさな山になる
小人の上に降り積もる
小人は砂糖をポケットに入れ小屋へ持ち帰り
うすい砂糖水をこしらえて
唇を突き出したような格好でいつまでも啜っている
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あたしには夜の記憶しかないんです
脱いでも脱いでもなんにもでてこないのは
あたしっていう人間がつまらないから
おもしろいひとになりたくて
漫才を覚えたくてたくさん本も読んだけど
いつか
男がから揚げを食べながら教えてくれた
積み木でもするみたいに
書物でかよわい城壁をつくりその奥へ沈殿してゆくのだと
無意味な質問をして怖がるのはアホだと
から揚げみたいなあの男が話す口元は
使い古しの食用油で光ってた
あたしがなんにもこわくないのはそういう訳で
怖がりなのは業務用フライヤーに自分から
ダイブしてゆく黒焦げの三葉虫
絶滅するにも才能が要るって訳
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「大衆化された芸術ってやつが持ってるようなものは、どんな要素もサーカスの中にみんなあるじゃないか」ってTVからのナレーション 錬金術にかかったみたいに あたし 眠れなくなっちゃって このステージが世界の一点で全体なんだってわかった
それからずっと おばあさんになるまでここを愛せるような気分になって 夢でも見てるみたいにうっとりして 毎日ストリップしてる 見せるものなど何もないけど
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お客だって何にもないことをおどろいたりよろこびはしても
いつまでも感傷的になれるほどアホじゃない
そうやってこころみたいなものがささえられる
そういうこころみたいなぶぶんと口笛と紙テープが
ながいながいながいながい パンティストッキングみたいな首吊りロープにつながってる
たぶんそれは全人類をつないで結べるくらいにながい
首吊りロープに引っかからない為にあたしは口笛をたぐりよせ
スルスルと吸い込んでは蓄える
安物のスルメみたいな匂いがなんだか恋しくなる
汚れたタオルが洗濯機に放りこまれる
そうやっていろんなものをほうりこんでグルグルまわす
ストリップ劇場の楽屋口の物干し脇で
煙草を吸いながら洗濯していると
焼鳥屋のバイトのコが缶ビールみやげに遊びに来る
下心があるみたいな爽やかさで
下心がないみたいな人なつこさで
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選出作品
作品 - 20100227_041_4210p
- [佳] striptease - はなび (2010-02)
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