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作品 - 20100227_041_4210p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


striptease

  はなび



場末の酒場のサーカス小屋みたいなおんぼろのステージで
観客は興奮したら死んでしまいそうな爺さんばかり
肉体を憧憬するより背後に渦巻く古典的な愚かさ
身につけた装飾品を剥がしてゆく
たおやかな線が表れる
詩的な昆虫が脱皮するように

ストリップ劇場の外では男も女もその他大勢
何か脱ぎきらないまま抱き合ったり潰れたり

幕間のコントが爆竹の様にけたたましく走り去り
ストリップ嬢の絹の靴下に吸収される

女の匂いが火花のようにパチパチ衝天するような
角材で殴られて気絶した夜

拡声器の残響だけが
脳裏を支配する暗転



幕が引かれスポットライトがあたると女は自分の生立ちで漫才をはじめた
秀才肌だが自慢話と悪口ばかりの年上の男にいつも低能だと罵られていたせいで
すっかりマゾヒスティックになってしまった夜のこと
子供の頃遊んだ公園の滑り台が蛸のフォルムをしていたせいで
曲線と吸盤の快楽を知ってしまった夜のこと
真夜中のキッチンで冷蔵庫を開けた途端紙パックの牛乳に寄り掛かられて
ミルクアレルギーになったこと



覗き穴と世界中の好奇の目
白目をむいて過呼吸気味
まぶたが裏返ったような奇態な人類が
覗き穴の奥に住んでいると聞いたけど
朝になればお弁当を持った小人がゾロゾロ出勤してゆく

お手洗いに行きたくなって目が覚める
朝のひかりにゆうべのラメが鈍く反射して
ここがどこだかわからなくなる

いろいろな部屋のいろいろな窓
いろいろな家具のいろいろな色
いろいろな場所のいろいろな朝

果物や牛乳
不味いパンや美味しいパン

白砂糖がポロポロこぼれてちいさな山になる
小人の上に降り積もる

小人は砂糖をポケットに入れ小屋へ持ち帰り
うすい砂糖水をこしらえて

唇を突き出したような格好でいつまでも啜っている



あたしには夜の記憶しかないんです
脱いでも脱いでもなんにもでてこないのは
あたしっていう人間がつまらないから

おもしろいひとになりたくて
漫才を覚えたくてたくさん本も読んだけど
いつか
男がから揚げを食べながら教えてくれた

積み木でもするみたいに
書物でかよわい城壁をつくりその奥へ沈殿してゆくのだと
無意味な質問をして怖がるのはアホだと

から揚げみたいなあの男が話す口元は
使い古しの食用油で光ってた

あたしがなんにもこわくないのはそういう訳で
怖がりなのは業務用フライヤーに自分から
ダイブしてゆく黒焦げの三葉虫
絶滅するにも才能が要るって訳



「大衆化された芸術ってやつが持ってるようなものは、どんな要素もサーカスの中にみんなあるじゃないか」ってTVからのナレーション 錬金術にかかったみたいに あたし 眠れなくなっちゃって このステージが世界の一点で全体なんだってわかった

それからずっと おばあさんになるまでここを愛せるような気分になって 夢でも見てるみたいにうっとりして 毎日ストリップしてる 見せるものなど何もないけど



お客だって何にもないことをおどろいたりよろこびはしても 
いつまでも感傷的になれるほどアホじゃない 
そうやってこころみたいなものがささえられる 

そういうこころみたいなぶぶんと口笛と紙テープが 
ながいながいながいながい パンティストッキングみたいな首吊りロープにつながってる 
たぶんそれは全人類をつないで結べるくらいにながい

首吊りロープに引っかからない為にあたしは口笛をたぐりよせ
スルスルと吸い込んでは蓄える

安物のスルメみたいな匂いがなんだか恋しくなる
汚れたタオルが洗濯機に放りこまれる
そうやっていろんなものをほうりこんでグルグルまわす

ストリップ劇場の楽屋口の物干し脇で
煙草を吸いながら洗濯していると
焼鳥屋のバイトのコが缶ビールみやげに遊びに来る
下心があるみたいな爽やかさで
下心がないみたいな人なつこさで

文学極道

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