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作品 - 20100220_895_4188p

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褐色の月

  岩尾忍

あの子は
砂糖の箱の中で死んだ

透明な滑らかな
傾斜95度のアクリルの坂を
あの子は繰り返し登った
一度目はほとんど
頂上に達するまで
そしてその端に爪をかけようとして ぽろっと
黒い雪の片のように落ちた

あの子は繰り返し登った
二度目は八分目まで
三度目は七分目まで
四度目は半ばまで
五度目はその半ばまで
そして登っては ぽろっと
音もなく落ちた
まるで
そういう遊びのように 

疲れると あの子は
足元の砂糖を舐めた
右にも左にも延々と続く
純白の砂糖を
砂糖は甘かった 腹は
いくらでも膨れた
しかしその後にやってくる渇きを
充たすものはなかった

外はよく見えた 見えすぎるほどに
あの子と同じ色 同じ形の
多くの影が過ぎた
近くを
そしてかぎりなく遠くを

それは長い三昼夜だった しかし
所詮は三昼夜だった

あの子が死んだ時
しらじらと起伏する砂糖の丘の彼方に 一つの
褐色の月が出ていた
そしてその月の光は あの子の
砂糖に埋れつつ砂糖に膨れきった影をも
かすかな虹色の暈の襞で飾った


このように言いたいのだ 私は
その月が もちろん
月などではなかったとしても
清潔な台所 その棚で翌朝
あの子の亡骸を見とがめて捨てる手
その同じ手が点した
一つの
褐色の豆電球に
すぎなかったとしても

文学極道

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