向こうに布をかけて、道を閉ざしてしまうことにした。繊維の隙間から街々の影が覗いている。それが次々に増えていって震え出した頃に、わたしは布を撥ね除ける。布の下から青や赤が駆け抜けていって、部屋全体を染め上げる。それからつめたくなった彼女を見つけて、まど、と呼んだ。
いつも向こうから囁いているのは、やけるような夜景だ。彼女はそこに恥部をさらけ出して言う。物語の作り方を知りたい、と。それなら、とわたしはその背中に滑り込んだ。背中の上で燃えて、わたしは灰になる。ここには誰もいない。誰もいないんだよ。
(引き延ばして欲しい、もっと、影だけでも背伸びして、太陽に裸体を曝して、どこまでも続く背中の中に、)
向こうから、夜景の消えていく音がする。それは街路樹の群れをこえ、信号機の点滅をこえて、やがてわたしの鼓膜をこえて、中へと入ってくる。代わりに色彩が少しずつ短くなって部屋から抜けていく。
彼女は歯をわたしに向ける。日差しはそこかしこに散らばって、ぎらぎらと滾っている。彼女はわたしの物語のせいで、歯まで真っ黒だ。夜が更ける頃に、わたしはつめたくなった背中を探して、部屋中に広がるだろう。だから、また布をかけて、向こうからくるひかりを閉ざすことにした。
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作品 - 20100219_866_4184p
- [佳] 窓 - はかいし (2010-02)
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窓
はかいし