眠れない真夜中。
この街を縦横無尽に走る、幹線道路。
行き交う蛍は、目的地を知らないの。
乱立する、高層建築物。
点された炎は、ひどくつらそうに、
死角を放出している。
ねえ、、
ビルの脇に等間隔にたたずむ、
カーキ色の街路樹。
公共バスに窮屈そうに乗る、
仕事帰りの会社員。
裏路地にかりそめの関係を探す、
涙線のない女子高生。
コンビニに並んだ菓子パンみたい。
一様にくたびれていて、
きっと鉄の味しかしないわ。
パーティーに使う、
折り紙のわっかを繋げて作るやつ、
あれ、名前なんて言うんだっけ。
視線の抱擁、
網膜、と、網膜、
キスをしよう。
篝火の暖色に包まれ、
ホームレスの男たちは、
小さな公園の隅で、
儀式をしている。
震える、切っ先、
吐息、絡める、
重ねる、輪、
保健所ではたくさんの動物が、
毎日殺処分されているから、
その中に二人ぐらい、
人間が混じり込んでも、
きっと、気付かれない。
声を潜めて、一緒に、
おどりを、踊ろう。
温度のないリズム、
壊れた問いかけ、
吐き捨てられたガム、
誰も知らない。
願い、人、
きこえる、きこえず、
感覚が。
昨夜から、どうもおかしいみたい。
どうおかしいの。
なんだかね、すごくぼやけてる。
ふうん。
摩擦。
数多もの心が波になる。
数多もの波が海になる。
銀波が水面を浚う。
水中は見えない。
傷付いた音や光が、
手のひらの世界を、
飽和させている。
不器用な喧騒。
夜ごと、内部で生み出された騒音を、
やかましい光に変え、
ネオンサインから排出している。
そんなパチンコ店。
夜ごと、光に集まる蛾のように、
汚れたスニーカーたちが、
忘却の快楽を求めてコインを弄る。
そんなゲームセンター。
夜ごと、淡く色づいた爪が、
指先でついばむように、
一瞬の空白を傷つけあう。
そんな風俗店。
空っぽの欲望がね、
ぎらぎらしている、
そんな悲しい光が、
この街の夜を照らしているんだよ。
眠らない街、だって。
眠れない街、なのにね。
うるさい光たちが、
羽虫のように飛びかって、
ぶんぶうん、って、
耳障りな音を立てている。
こんなに明るいから、
星なんて見えるはずもなく、
綻びのない常夜に、
都心は傷跡を抱き、
旅人たちは、
祈りを、
選出作品
作品 - 20100212_710_4171p
- [佳] Petite et accipietis - しりかげる (2010-02)
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Petite et accipietis
しりかげる