#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20100120_991_4096p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


リミット・オブ・コントロール

  ぱぱぱ・ららら

1、ウィリアムとジムへ
 
 先週、わたしたちは風邪をひいてトイレから一歩も出られなかった。わたしたちとは、わたしの心とわたしの体とわたしのこと。わたしの心は美術館に行っていた。そこには誰も見たことがない絵ばかりが飾ってある。なぜならその絵たちは芸術性の欠片もなければ、技術的にも見るべきところはなく、人気すらもなかった。わたしの心はその絵たちの中のひとつの前にずっと立っていた。『中性子』という題の絵だった。それは指揮者のいないオーケストラであり、ジャワのガムランであり、それはどこにも動かすことが出来ず、なににも変換不可能なものだった。わたしの心とは違い。
 わたしの体とわたしがどこに行ったのか語るのは難しい。わたしたちはそれについて語るつもりがないのだから。
 
2、語ることはなく、書かれることもないものへ
 
 美しくもなく、優しくもなく、儚くもない女の子が死んだとき、わたしたちは泣かなかった。わたしたちには泣くべき理由がなかった。涙の代わりに言葉が流れた。それはここでは書けない言葉。
 
3、変換
 
 わたしたちはわたしたちを変換させる。わたしたちはわたしたちの顔を整形し、体を長く細くする。わたしたちはわたしたちの論理を明瞭化し、思考を形式化する。わたしたちはわたしたちの性格を穏やかにし、生活を統一する。わたしたちはわたしたちのことをロボットと呼ぶことになる。
 
4、想像
 
 わたしたちが書くのはここまでだ。ここから先はわたしたちにとって、機械となったわたしたちにとって良くないことが起こるからだ。途中まではうまく行っていた。みんながわたしたちに憧れ、みんながわたしたちのようにロボットへと変換していった。世界全体ががロボットへと変換していった。なのに、ある種のものはロボットへの変換を拒絶した。彼らのことを話すつもりはない。彼らはわたしたちとは違うし、わたしたちは彼らとは違う。わたしたちは彼らを憎む。それ以上のことを言うつもりはない。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.