(Daybreak)
雨あがりの丘のうえ
土の息づかいさえもうるさく
雲の割れ目から、かすんだ町に
降り立つひかりを
ゆびおり数えた
やがて立ちなおり路をかえりながら
数えたあとの汚れたゆびのまま
伸ばしかけの髪を摘む
ぽろぽろと
星の抜け殻がすべり落ちる
(Early morning)
忘れていた
小学校の先生はとっくにおなじ世界にいないこと
わたしは机の奥
先生から貰った本を見つけてそれから燃やす
幼い作文や古い新聞も一緒に燃やす
燐寸をつけ焔をともすと
文字はしろくふわりと舞ったり
くろくゆったり沈んだりしながら遊んで
凍る間際の水のように
たのしい
(Daylight)
軒先の夥しい緑色を刈る
ささやかな花びらのついたものも容赦なくひき抜く
あたらしい軍手はかたく
不乱に緑色を積みかさねている
するとどこからやってきたのか
毛艶のよい三毛猫がふくらはぎにすり寄ってきた
可愛らしい中肉)中肉を爪でなぞる)背に一筋)砂の混じった線がはいる)隣に座り)庭の隅に植わったパンジーの)花びらの揺れるの(を)じっと見ている)
ほぐれた土の面からてらてらしたみみずのあらわれ
わたしは驚きもせず
ほれ、と、少し遠くへ投げた
三毛猫はしっぽを忘れて駆けてゆく
脚から透きとおり消え、なんと淡いのだろう
パンジーがわたしを観察している
(A swing boat)
星のはじまりもおわりもまだ覚束ないまま、誤った腕をすり抜けてばかりいる
(Wintering)
目覚めるといつも冬で
こども達より先に霜を踏みあるく
部屋にもどると
すっかり冷えてしまい再び毛布にくるまる
霜が溶け、ランドセルが路を彩る頃には
すでに眠りについて
だからわたし、こども達のことをあまり知らない
(On time)
丘のうえには仄ぐらい雲が町を押し潰そうとしている
郵便配達夫は口笛を吹きながら、そのひずみに身を投じようと
たくさんの夜明けを抱え走りさってゆく
最新情報
選出作品
作品 - 20091225_451_4043p
- [優] 星かごのなかで - ひろかわ文緒 (2009-12)
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星かごのなかで
ひろかわ文緒