「窓をあければ、港が見える」*
と、父と母が唄って
この島国は生まれた
1945年、四方を潮のしぶきが洗った
ふたたび日は昇り、日は落ち
タールまみれの群衆が湧きだし
行列し、行進し、ひしめきあい
海にこぼれる者も汽車に轢かれる者もいた
やがてわたしが生まれ
はやりの唄が子守唄
海のむこうの戦争がおとぎ話だった
夕焼けと食い物のほかに人に語るほどの少年時代はなく
大学を出た
通勤電車から見える西日のあたる丘には
牡蠣殻のように屋根がひしめき
身をかがめ、車窓から眺めるたびに
そのひとつに私が棲んでいるとは
なんとふしぎなことだったろう
回る目玉がなかなかそろわず、いつも口紅がはみ出している妻と
三角形の赤いスカートをはいてさかあがりする娘と
四半世紀暮らした
人並みに、思えもして
幸せだった
そして、それから
どうしたものか
近しいことはなにひとつとして思い浮かばず
窓をあければ、電線のうえ
青空のひじょうに高いところ
さらさらとすじ雲はながれ
窓をあければ、生きてゆきたい
* ・・・・・ 「別れのブルース」 淡谷のり子 唄
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作品 - 20091208_054_4008p
- [優] 窓をあければ - 鈴屋 (2009-12)
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窓をあければ
鈴屋